企画小説

□8月9日(ハグの日)
(小十幸←政)
2ページ/2ページ


だから某も、遅くまで引き留めていた。少しでも長く、片倉殿と共にいたくて。







「片倉殿…」








政宗殿は、片倉殿が元気になられる方法を教えて下さった。
けど今は、声を掛ける事さえ戸惑ってしまう。

あんなに集中して頑張っておられるのに、それを邪魔するみたいで。








『邪魔だと思うのか?』


「…ッ」


『本当に迷惑だと?』


「…違う。」








政宗殿の言葉を、頭を振って否定する。
そうではないと分かっている。知っている。
重ねてきた月日はまだ短いけれど、片倉殿が某に下さる想いは…



強く深く… そしてあたたかいのだ。








カタン…








「…誰か居るのか? 悪いが、熱い茶をいっぱ…い…」








ぎゅうッ…








「おいふざけてるのか!? 俺は今……!!!!」


「ふざけてなど、おりませぬ。」


「さな…だ?」








急に背中に抱き付かれ、何事かと振り返れば…
そこには真田がいた。








「昨日、お忙しいのならば言って下されば良かったのに。」


「何?」


「そうであれば…」








こんなに、仕事を溜め込まずに済んだのでは…








「お前が気にする事じゃない。」


「ですが…」


「要領が悪いだけだ。…俺のな。」


「片倉殿… では、せめて何かお手伝いを致します!そういえば、お茶を御所望でしたな。今すぐ…」








抱き付いた手を離し立ち上がろうとする。が、片倉殿の手が某の手に重なり動けなくなる。








「茶はいらねえ。」


「え?」


「お前が居れば、その…」


「片倉殿?」


「お前がいればそれだけで…いい。」


「しょ…承知致した////」







立ち上がる事をやめ、その大きな背中に寄り添った。
背中からとはいえ、自分から抱き付くなど大胆な事をしてしまったと恥ずかしさはあるが…








トクントクン…


すぐそばにあるこの鼓動が、何より愛しく何より安心する。








ぎゅうぅッ…








「真田。」


「あ…力を、入れすぎましたか?」


「いや。ただ…抱き締められるってのは、落ち着くモンだと思ってな。」


「…」


「お前の鼓動(おと)は、安心する。」


「…」


「黙るんじゃねえ!俺が…照れるだろうがッ…」








だって、黙ってしまうのも無理もない。
耳まで赤く染め、照れ臭そうな片倉殿を見る事など、初めての事なのだから。








「某も、同じ事を考えておりました。」


「さな…」


「この鼓動(おと)は、まことに…」


「そうか…」








邪魔にも、迷惑にもなるはずがない。

そばに居て、寄り添って、重なる鼓動にこの上ない幸せと安らぎを感じるのだから。





いつもは誰かを護る背も、今日ばかりは某に護らせて下され。
貴殿のそばで、ずっと…ずっと…







 
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ