企画小説
□貴方への一歩
(家×幸)
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久し振り? そうだろうか? 家康殿と見(まみ)えたのは、つい先日の事のはず‥
「家康殿、突然のお越し、一体何用に御座る?前もっての連絡も無く、上空より我が地に踏み入るは敵襲と間違われても言い訳出来ませぬぞ。」
目を逸らさず、キッとその瞳を見つめる。
家康殿の意図が分からぬ以上、気を緩めるわけにはいかぬ。
「すまんな。無礼は詫びる。だが、決して戦いに来たわけではないんだ。」
「ならば、何故参られた?」
「それはだな‥ その‥」
珍しく言いよどむ家康殿。
戦いに来たわけではないというのは、どうやら本当のようだ。
「‥大したもてなしは出来ませぬが、茶でも飲んで行かれるがよい。」
「あ‥ああ、有難う。」
申し出に安堵し、小さく微笑む。
こんなに自信なさげな家康殿を見るのは、初めての事だった。
―――………
静かな時が流れている。
部屋に招き茶を出すが、家康殿はどこかソワソワしていて何も語り出しはしない。
「家康殿、何か話があったのではありませぬか?」
「それは…」
待ちかね、こちらから声を掛けてもその態度ははっきりしない。
「言葉を詰まらせるなど、貴殿らしくもない。」
「そうかな?」
「そうで御座る。いつも未来をその瞳に映し、皆の先を行く貴殿は、常に自信に溢れているでは御座らぬか。」
「ワシが?」
目を見開き、困ったような笑みを浮かべた家康殿は、少し間を置いてから話し始めた。
「そうか‥ 真田の目に、ワシはそんな風に映っていたのか。」
「家康殿?」
「だがな、ワシだって人の子‥ 失敗すれば落ち込むし、間違う事だって多々ある。」
拳を強く握り、少し俯くその姿は‥ 頼りなく、どこか寂しげだ。
「しかしそれでも貴殿には、強く、支えとなる仲間がおられるではないか。」
「ああ、何にも代え難い大切な者達。一人一人の力が、心強くワシを支えてくれる。」
「ならば‥「だが、それ以上に必要な者が‥ワシにはいるのだ。」
真っ直ぐ見つめられる。先ほどまでとは違い、強く輝くその瞳に。