企画小説
□ありがとうを君に
(佐幸)
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「ごめん旦那!ちょっと仕事でトラブルがあって… すぐご飯の支度するからっ…って、あ…れ?」
帰り間際に仕事のトラブル。連絡する間もないし運悪くケータイの充電も切れたからとにかく急いで帰って来た。
旦那が、お腹空かして待ってると思ったから。
「…いい匂い。何で?」
飛び込むように玄関を開ければ「遅い!」とか「空腹で死ぬ!」って旦那の声が聞こえて来ると思ったのに、キッチンから流れてくる美味しそうな匂いに目を丸くした。
「…旦那?ただい…ま?」
なぜか疑問形になりながら、恐る恐る中に入る。
「おお、お帰り佐助。今日は少し遅かったのだな。」
「ただいま旦那。あ…うんちょっと仕事でトラブルがあって…」
「そうか。」
「うん。」
…で、旦那はなにしてるの?
とは聞けなかった。見れば一目瞭然、旦那が夕飯の支度をしていたのだから。
「連絡出来なくてごめん。お腹空いたんでしょ?後は俺様が変わるか…「手を洗って、佐助は食器を出してくれ。」
「うん…?分かった。」
あれ?なんかいつもと反応違う?
旦那怒ってるのかな…
予定より仕事が長引いて、帰りが遅くなる事は何度かあった。
そんな時でも旦那が夕飯の支度するなんてなかったのに…
(よほど我慢出来なかったのかな?料理苦手なはずなのに…)
でも支度しておいてくれたのは有難い。
俺様もお腹ペコペコだったから。
「今日は何作ってくれたの?匂いからして…ビーフシチュー?」
「…そうだ。」
シチューかぁ… 寒くなって来ると食べたくなるよね。ゆっくり野菜を煮込んで…
あれ?でもそんな材料あったかな?
人参も玉葱もきらしてたはず。
「ねえ旦那。わざわざ買い物に行っ…「これ、置いてくれ。」
「…はい。」
やっぱり、なんかおかしい。
怒ってる… わけじゃないみたいだけど。
「これ、ご飯よそうね。旦那は大盛りでい…「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「な、な、な…なに!?」
キッチンの奥へ入ろうとしたら、すごい勢いで止められた。
(え―と、これはどういう…)
「あ…大きな声を出してすまん。こっちは、俺がやるから。」
「…分かったよ。」
嘘。
本当は全然分かってなんかない。
だって旦那はいつもと様子違うしさ、調子狂うっていうか…ねぇ。
「旦那さぁ、もしかして怒ってる?」
「怒る?なぜ俺が?」
「いや、違うなら…いいんだけどさ。なんかいつもと…」
「い…いいならもう食べるぞ。俺は腹が減ったのだ。」
「うん。」
はい、本日何度目かの強制終了。
俺様の話強制終了。
もういいか。
旦那は怒ってるわけじゃないし、俺様もいい加減お腹空いたわ…
「じゃあ。」
「ああ。」
「「いただきます。」」
気持ちはまだモヤモヤしたままだけど、今はご飯ご飯。
暗い気持ちのまま食べちゃ、もったいない。
ぱくん…
(あ、美味しい。野菜はよく煮込まれてるし、肉も柔らかいな。旦那料理が苦手なはずなのに、これなら…)
「旦那、このシチュー…って近ッ!!!!!」
視線を上げれば、もの凄い近い距離に旦那の顔。
そりゃぁもう、ぼやけて見えないぐらいの距離。