小説

□その先に…2
(小十幸)
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「………」



公園で一人、幸村は悩んでいた。



(もうすぐ約束の時間‥行かねばならぬのだが…)



今日はモデルのバイトの日。いつものように小十郎のマンションへとやって来た幸村だが、その足は近くの公園で止まっていた。



(片倉殿をお待たせするわけにはいかぬ‥ それは分かっているのだが…)



そう頭では分かっていてもこの場を離れられない理由が幸村にはあった。

そう、それは先日の事‥幸村が誤って精力剤を飲んでしまった日。その日の事がずっと脳裏に焼き付いていて離れないのだ。



(片倉殿は気にするなと言って下さったが…)



初めて知った感覚‥ 未知の世界に不覚にも意識を失ってしまった。

目覚めた時にはすべてが夢のように感じて…
けれど気遣ってくれる片倉殿の言葉や眼差しが、事実だと物語っていた。



(あの力強い腕の中で、某は‥)



はっきりとは覚えていないはずなのに、今でもあの低い声が頭に響いている。




『真田‥』




熱い吐息が‥
鋭くも優しい瞳が…



「片倉殿…」




………はっ!



「何を考えているのだ某は!」



急激に、顔に熱が集まるのを感じる…



「か‥片倉殿は、どうにも出来なかった某を助けて下さったのだ!そう、それだけの事だッ!!」



誰に問われているわけでもないのに、幸村は大声でそう叫ぶと勢いよく立ち上がった。



「御礼を申し上げ、借りた服をお返しすればいつも通りだ。」



幸村は自分に言い聞かせるようにそう呟き、マンションへ向かって駆け出した。



―そう、いつも通り…



なのに、胸の奥にかかるこの靄は何だろうか?




………ー―




「遅くなり申した片倉殿、幸村に御座る。」

『ああ‥』



変わらない。いつもと同じ短い言葉のあと、カチャンとオートロックの鍵が開いた。




「珍しいな、お前が遅れるなんて何かあったのか?」

「い‥いえ何も。少しのんびり歩いていたもので… 申し訳御座らん。」



そう頭を下げる幸村の髪を、小十郎は「いや‥」と優しく撫でた。



「片倉殿?」

「ん? ああ、何でもねえ。」



どこか上の空な小十郎を気にしながらも、幸村は部屋の中へと進んでいった。

そうして約一週間振りにここへ来た幸村だが、有り得ない光景に我が目を疑ってしまう。

 
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