「那乃葉ちゃん、モテ期到来だね♪ でも面倒な人に好かれちゃったね。兄的存在な俺としては心配なところだけど、付き合う前に綱吉君の本性を知れて良かったじゃん。」 沢田君の背中が見えなくなったところで、先輩が話しかけてきた。 『……あの一応言っておきますが、私別に沢田君と付き合うつもりなかったんですけど。』 「え……そうだったの?俺はてっきりOKしちゃうと思ったから遮ったのに。 ん?でも綱吉君、バレたからには拒否権はないとか言ってなかった?」 『確かに言ってましたね。…ってどうしてくれるんですか!?!?私の意志とは関係なしに話が進みすぎですよ!!』 「アハハハハ…。きっと大丈夫だよ那乃葉ちゃんなら。今までだってどんなに困難な状況になっても勇敢に立ち向かってきたじゃん。」 『私にそんな勇敢な過去はありません。それに先輩は私の何を知ってるというんですか!!』 いつも人を計算で巻き込んで行く先輩だけど私の気持ちばかりは予想外だったらしい。表情や声音はいつも通りだけど言ってることがどこかおかしい。 「那乃葉ちゃんのことならよく知っているつもりだけど♪ 俺の実家の隣の家の子で、成績は常に平均ちょい上。中学では俺の力になりたくて生徒会に入会。俺のことを"臨也お兄ちゃん"って呼んで、いつも俺の後ろを 『ストップ!ストップ! 最後のは私がまだ幼かった頃の話じゃないですか!!それに先輩の力になりたくて入った生徒会も結局は先輩の暇つぶしのために踊らされてた、だけ、、だったし……』 「那乃葉ちゃん…。 そんなに俺のこと好きだったなんて。気づいてあげられなくてごめんね。」 『……………。はぁ、なんか疲れました。私は別に先輩のこと好きだった訳じゃありません。そして今はあなたが大っ嫌いです。だから高校ではあまり私に近づかないで下さい。』 不覚にも少しだけ(重要)涙ぐんでしまった。 私にとって折原先輩は近所の優しいお兄ちゃんで、何でもそつなくこなす憧れの存在だった。そんな先輩に少しでも近づきたくて中学校では、生徒会長をしていた先輩の生徒会に入ったのに身の回りに起こる不可解な出来事。その全ては先輩が仕掛けてたことだと気づいた時の裏切られたような喪失感。 あの時の私は、さぞ滑稽だっただろう。 「あれれ?本格的に嫌われちゃったみたいだね。 でも残念。君に近づかないという約束はできそうにないな。だって君は会長秘書として生徒会に入ってもらうから、嫌でも俺のそばに居ないとね。 秘書ってそういうものだろう?」 『会長秘書?そんな役職聞いたことありませんし、私は生徒会なんかに入るつもりは全くありません。』 「僕が作ったんだよ。校長も快く承諾してくれたし、それに秘書だけは会長が指名できるんだ。そして選ばれた方に拒否権はないよ。」 (校長先生…。きっと先輩に言いくるめられたんだ。もしくは弱みを握られているかのどっちかだ。可哀想に…。) 入学式の時に見た優しそうな校長先生になんとなく同情した。 『また先輩の独裁体制ですか…。何を言っても無駄だということは分かってるので会長秘書は引き受けますが、常に先輩のそばに居るのだけはごめんです。』 「さすが那乃葉ちゃん♪ 諦めと妥協で生きてるだけあるね。まぁどんな時でも連絡がちゃんととれる状態にしてくれるならそれでも良いよ。」 『誰のせいでこんな性格になったのか自分の心に聞いてみて下さいよ。』 「那乃葉?」 先輩との交渉が成立し嫌みを言っていたら後ろから私を呼ぶ声がした。 (この声は…) 一緒に帰る約束をしていたのに、私がなかなか来ないから探しに来てくれたのだろう。 『シズちゃん。』 声がした方を振り向くと案の定そこにはシズちゃんが居た。 「那乃葉、こんなところで何してんだよ。」 (よし、あんまり怒ってない。) 「…シズちゃん? 那乃葉ちゃん、シズちゃんって平和島静雄のことかい?」 シズちゃんは普通の人よりも短気だからいろいろと気をつけなくてはいけない。私がシズちゃんの表情を窺っていたら、折原先輩が此方に近づいて来た。 『それでは今日のところは迎えが来たので失礼します。後日にでも仕事内容の確認も兼ねて挨拶に行きますので、さようなら。 待たせてごめんねシズちゃん。用事も終わったから帰ろう。』 折原先輩の声を聞いた途端、明らかに不機嫌な表情になったシズちゃんを見て、私は先輩への挨拶を適当に済ませシズちゃんの手を引きながらその場を後にした。 ◆ |