06/08の日記

20:44
笹ヤコ:弐
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いつも通りの日常だった。
ただ一つ歳を取っただけの、いつも通りの誕生日。
母は相変わらず仕事が忙しいし、私も学年末の時期のせいか、色々と予定が詰まっていた。
学校では友達がおめでとうの言葉をくれて、更に叶絵からはプレゼントも貰った。

だからといって浮かれているわけにもいかず、本屋で参考書を見てみたのはいいものの、自分の進路も決まらない。
何がしたいのか、考えてみても浮かぶのはまだ不安が残るものばかりだ。

探偵になりたいと思えども、ネウロのような推理力はない。
いっそのこと刑事を目指そうか、なんて考えて笑みが浮かんだ。
良いかもしれない、あの人の隣で一緒に働くなんてちょっと憧れてしまう。

そこまで考えたとき、自宅前に見慣れた車が止まっているのに気が付いた。

「…笹塚、さん?」
「弥子ちゃん」

突然自分の前に現れた彼は私を見るなり近づいてくる。
その手には少し大きめの包みが見える。

考えなくてもわかる。
今日は私の誕生日だ。
17歳の誕生日なのだ。

「誕生日、おめでとう」
「まだ、17ですけどね」
「まぁ、弥子ちゃんも若いし、他に行きたくなったら行けばいいよ」
「それ本気で言ってます?怒りますよ」

そう言うと、笹塚さんは誤魔化すように包みを差し出した。

「消えもんの方が良いかと思って」
「わ、ケーキですか?」
「弥子ちゃんなら一人でいけるよね」
「え、お茶でも…」
「それは次回、ってことでいい?」
「…そうでした」

「じゃあ」

そう言って笹塚さんは車を出した。
私は目の前のケーキを持ってそれを見送る。
あと一年がこんなにも待ち遠しいのはどうしてだろうか。

答えは解りきっているのに、これ以上辛くなるのを防ぐために、私は考えることを止めた。



END.


前の続き。
なにこれ、この短さだと超書ける。


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12:17
笹ヤコ:壱
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「好きって言ったら迷惑ですか?」

遂に気づいてしまった感情を、十代ならではの若さで突っ走って打ち明けてしまった。
普段はどちらかというと冷静な方だったと自負していたのに、この恋愛感情というものは恐ろしいものだ。

目の前の彼はお得意の無表情を崩さない。
しかし、私は知っている。
彼が今、思いもよらない展開に呆けていることを。
その証拠に、よく見ると口が開いている。
殆ど表情の変わらない彼の、小さなサインだ。

じっと彼を見つめていると、小さく開いていた口が閉じた。
ゆっくりと上げた右手を私の頭に乗せて、視線を逸らして彼が再び口を開く。

「迷惑じゃないよ」
「じゃあ、」
「ただ、弥子ちゃんが18になるまで返事は聞かないでくれるかな」

その言葉を聞いた瞬間、俯いていた視線が飛び跳ねた。

笹塚さんの顔はいつも通りの無表情だ。
だけど私にはわかる。
よく見ないとわからないけど、彼の頬はうっすらと色づいている。

それが嬉しくて、でも私が18になるにはあと二年もあるわけで。
複雑な思いだ。

「今、手ェ出しちゃうと捕まるからさ、オレ」


そう言って笹塚さんはポンポンと私の頭を叩いた。


End.


だって警察官が女子高生に手を出したらダメだよね。
その辺笹塚さんはわきまえてますよね。(本当は出して欲しいけど)


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11:08
社長マルコ
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side:Marco


こんな自分のどこが良かったのか、そんなことは考えても分からなくて、ただ野垂れ死にそうになっていた自分を拾ってくれたオヤジについていくと決心した。
決心してから幾年月が流れてオヤジが死んだとき、オレの心には何も残っていなかった。

ただオヤジの残したこの会社を潰してなるものか、そう考えて脇目も振らずに走り抜けた結果、会社は国を代表する企業にまでのし上がった。

これで満足か、そう考えても答えなんて出ない。


「社長、また見合いの話来てるぜ」
「断っとけよい」
「でもよー、お前がさっさと身を固めねぇのも悪いんだぜ?今をときめく白ひげの社長が独身って!狙われるだろ、ハイエナによ」
「ハイエナになんて興味ねぇよい」
「ま、わかるけどよ。その気持ちは」


そう言ってサッチは見合い写真を開いては品定めしている。
といっても手を出す訳でもなく、ただ単に女の写真を見て楽しんでいるだけだが。


女といえば思い浮かぶのは一人だけだ。
まだオレが荒れていた時、オヤジに拾われる前の話だ。
誰彼かまわずケンカを吹っかけてはボコボコにしたりされたり、そんなことを繰り返していた。
公園の水道で痛む傷を洗っていた時、小さなガキが近寄ってきた。
小奇麗にされたガキが小汚いオレを笑いに来たのだと思ったのに、そのガキはオレにねこのキャラクターの絆創膏を手渡して言ったのだ。
「バイキン入っちゃうよ!」
そう言って笑ったそのガキが、初めて自分に優しくしてくれた人間だった。
柄にもなく涙目になって、でもそのガキは母親に呼ばれていなくなった。
たったそれだけのことなのに、それが忘れられない。
あれが無ければきっとオレはオヤジの言葉すら耳にも入らなかったと思う。


「お、悲惨だねー。こりゃ融資狙いだな」
「なんだよい」
「この子、倒産寸前の会社社長の令嬢だぜ」


「まだ若いし可愛いのに、しかも断られるのに、かわいそー」そう言ったサッチの写真を単なる興味で覗くと、そこにはあのガキがいた。
他人の空似かもしれない。
でも、あのガキの面影はしっかりと残っていて、そして初めて気付いた。

参った、オレはロリコンだったのかもしれない。


「こいつ、受けといてくれよい。日時はスケジュール見て決めといてくれ」
「はぁ?受けるのかよ?」
「ああ」
「お前これ、金目当てだぞ?」
「いいんだよい」


そう言ってオレは会議へと出かける。
融資目当てでは先方から断ることはないだろう。
つまり、妻になるのは確実だった。
それが分かっただけで、今日はいい日だったと言える。

ロリコンでも何でもいい、あの少女が手に入るのならどんなことでもしよう。

惚れているのかどうかもわからないけど、あの少女がどうしても欲しかったのだ。




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