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□無自覚な両想い
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side:Lucy


「できちゃったみたい」


私の放った言葉はギルドを静まり返らせた。
当たり前だ、聞くまでもない。
出来たのは他ならぬ子供で、そしてその相手は多分みんな知らない。
知らない人物という意味ではなくて、ただ単にそういうことになっていたことをみんなは知らない。


「一応聞くけど、…なにが、できたの?」


ミラさんが恐るおそる口を開く。
その質問は多分ここにいる全員の総意だ。


「……こどもが」
「相手は?」
「もちろん、ナツだよ」


ナツはいない。
今頃ハッピーと釣りに行っているのだろう。
私がその隙を狙ってみんなに告白したのだから当たり前だ。


「お前らいつの間に!」
「ていうか、ナツに言えよそういうことは!」
「ルーちゃん…」


みんなが思い思いの言葉を口にして、私はそれをただ聞いていた。
呆然と、受け流すように。













事の始まりは3か月だ。
私は初めて飲んだ酒に呑まれて潰れてしまっていた。

ふわふわと上下する意識の中で、ナツに背負われて自宅へと帰っていったことを覚えている。


「ルーシィ、酒に弱ぇなぁ」


背負われながらそんなナツの言葉を聞いた。


部屋についてベッドに落とされてからは、少し呆れているナツに絡んでいた。
多分上機嫌だったんだ。
大好きなナツと、大好きなフェアリーテイルのみんなと楽しい毎日を送っている。その事実が私を充実させていた。


「ルーシィ!乳当たってる…」
「んー、だってナツあったかいんだもん」
「いあ、ちょっと、流石にもうヤバい」
「なによー!いいじゃない、減るもんじゃあるまいし」
「減るっていうか、オレも男なんだけど」
「何言ってんの?当たり前じゃない!」

「…………もう、しらねーからな」


そう言ってナツは酔っていて訳が分からなくなっている私を押し倒した。

咄嗟に腕を突っ張って抵抗しようにも、したたかに酔った頭と身体じゃ碌に力も入らない。
止めてと言おうとした唇を塞がれてから、初めてさっきのナツの言葉を理解した。

『オレも男なんだけど』

まさかあれだけ毎日のように「色気がない」と言っている相手に欲情するとは思わなんだ。
そしてナツにそんな欲があったこと自体に驚く。
そんな素振りなんて今まで見せたこともないのに。


「やっ、ちょっ、」
「オレは何回も忠告したからな」
「や、でもっ」
「もう止まんねぇ」


力でナツに敵うはずもなく、朦朧とした私は忍び込んでくるナツの熱い指に翻弄される。
その間に何度も抵抗を試みるけど、アルコールのせいでやっぱり力が入らない。


ただその手は優しくて、恐怖を感じることだけはなかった。






「ナツ、サイテー」


リサーナが口を開いた。
私の話だけを聞くとそう取ってしまうのはしょうがないことだと思う。
私はナツをフォローするように、また口を開いた。


「でも、次の日、私がしたことはもっと最低なことだったの」







あの日、私はナツとの行為が終わるや否や意識を失った。
普段摂取しないアルコールが限界に達したのだろう。

朝、目が覚めると衣服は綺麗に直されていた。
隣を見てもナツはいなくて、夢だったのかと思ったけどそんなに都合良くは行かなかった。

起き上がったときに下腹部に走った鈍い痛みが全てを物語っている。


シャワーを浴びて服を着て朝食を食べて、恐る恐るギルドの扉を開くと、そこにはナツとハッピーがいた。
いつも通りにわいわい騒ぎながらハッピーと朝食を食べている姿を見て、昨夜のことは夢だったんじゃないかと有り得ないはずの期待をした。
思わず顔が綻んで、いつも通りに「おはよう、ナツ、ハッピー!」なんて明るく声を掛けると、いつも通りに「おはようルーシィ」と返してくるハッピーと、ギクリと身体を震わせて食べかけのパンを落とすナツの姿があった。

決定的だ。
昨日のことは夢なんかじゃない。
紛れもない事実で、現実。

私は昨夜、ナツに抱かれてしまったのだ。

固まる私とナツに、それを見て不思議そうに首を傾げているハッピー。
この状況をどうしようか、脳をフル回転させても都合の良い妙案なんて出てきそうもなかった。

その時だった。


「おはようルーシィ、昨日の記憶はあるのー?だいぶ酔ってたし、二日酔いは大丈夫?」
「カ、カナ!」


固まっていた私に助け船を出したのは、他ならぬ酒飲みのカナだった。
なんて都合の良い言い訳だろう、記憶が無ければ何にも変わらない。
これからナツの傍にだって居れるし、このままずっと楽しくやっていけるのだ。
気まずくなることもない。


「いやー、なーんも憶えてなくって!送ってくれたのナツよね?ありがとね!」
「お、おう!」


我ながら上手く言い訳できたと思う。
カナも、ハッピーも、誰一人昨晩のことを知る人間はいない。

私と、ナツを除いて。



昨晩、ナツとは思えないほど低くて甘い声で囁いた
「ルーシィ、好きだ」
の言葉を、私は無かったことにしたのだ。




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