zzzA

□少し前へ
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片想いの期間は長いもので、気付けば思春期はもう終了に差し掛かっていた。
あれだけ打ち込んだ部活も引退し、今は受験一色の生活を送っている。
正直言うと恋愛どころではない。
でも、やっぱり部活に打ち込んでいた時よりは時間に余裕があった。
時間に余裕があるとどうしても考えてしまうのが、大好きなあの彼のことだ。

なんとなく時間があるといつもの公園に集まってしまう。
どうやら部活ばかりやってきた者同士、考えることは同じだったようだ。
勉強に身が入らないことなんて今に始まったことではない。なんて誰に言うでもない言い訳を用意して、私はいつもの場所へと腰掛ける。
隣には大好きな彼、テツヤくんがいる。


「もうやめるの?」
「やっぱり青峰君相手に1on1はキツイです」
「あはは!」


隣に座るだけで、心臓はどくんと跳ね回る。
もしかして聞こえてしまったんじゃないかなんて考えてそっとテツヤくんを覗き見ると、彼は何の気なしにタオルで汗を拭いていた。
それを見て脈が無いななんて考えるが、そんなことは今に始まったことではない。
私がテツヤくんを好きになって、一度でも脈があったことなんてあっただろうか。
考えると悲しくなるが、紛れもない事実なのだからしょうがない。
少しだけ落ち込んで、でも悟られたくなくて少しだけ顔を膝へとうずめた。


「ちょっとコンビニいってくるぁ!」
「桃っち黒子っち留守番しててー!」
「わかりました」
「私にも何か買ってきて!」
「何買ってきても文句言うなよ!」


いつもの笑顔は簡単に作れる。
いつものテンションもいとも簡単に作れる。
悲しいなんて自分勝手な感情を悟られたくないのだから当たり前だけど、少し欲が出てきたのかもしれない。
時間があるっていうのも厄介なものだ。どう転んだって好きな人を想ってしまう。

買い物に行く大ちゃんときーちゃんに立ち上がっておつかいを頼むと、私はふうと息を吐いて元の場所に腰掛ける。
ふとテツヤくんの方を向いてしまうのは最早癖だ。
そして、その彼はいつもなら前を向いているはずだった。

大ちゃんときーちゃんの騒がしい声が遠くに聞こえる。

「な、なに?ちょっと顔近いよ?」
「桃井さんは大学何処にしたんですか?」

いつもの真顔でテツヤくんは聞いてくる。
しかしじっと真っ直ぐに見つめられるとなんだか頬が熱くなってくる。
慣れていない、こういうのには。

「えっと、中央大学かな、今の成績だとそこが無難っていうか」
「そうですか」

そう言ったかと思うとテツヤくんは前を向いた。
やっといつも通りだ。なんだか意外な展開に妙な汗をかいてしまった。
そしてちょっと期待なんてしてしまった自分を心底殴ってしまいたいと思う。

「テツヤくんは?どこの大学に行くの?」
「僕も中央大学です」
「ホントに!?」
「はい、本当です」

まさか同じ大学に行けるなんて思いもしなかった。
さっきまで浸っていたブルーな気分が一気に吹き飛んでいった。
大学に行ったらきっとまたバスケのサークルに入って、こんな風に集まることもなくなるのだと思っていた。
そうしたら会えなくなるのかななんて漠然と考えていた。
勿論、それまでにはまだかなりの時間があったから現実味を帯びてはいなかったけど、考えてはいたのだ。
けれどそんな心配はなくなった。
嬉しくて笑みがこぼれる私を見て、テツヤくんが小さく笑った気がした。
それを見て口を開こうとしたとき、テツヤくんの唇が動いた。

「なので、僕たちの関係を少し進めたいと思うんですけど」
「……え?」

言葉の意味が上手く理解できなくて私はフリーズした。

それはどう考えても自分にとって都合よくしか捉えられない言葉で、でもそんなことはあるはずなくて。
でもあるはずないなんて誰が決めたのだろう。そう考えたら、それは紛れもない自分で。
でもでも、なんて混乱し始めた私を見て、テツヤくんが今度ははっきりと言った。

「僕と、付き合ってもらえませんか?」

はっきりと言葉にされた瞬間に顔が熱くなる。
絶対に赤くなっているだろう顔を想像するだけで、また恥ずかしさで熱くなる。
返事も忘れて「え?え?」と繰り返す私に、テツヤくんは膝の上で組んでいた腕に顔を埋めてしまった。
しまった混乱しすぎて嫌われた!なんて焦って涙目でテツヤくんの方を見ると、彼は埋めた腕から少しだけこちらを見ていた。
可愛すぎる。

「もう、遅いですか?」

小さくそう言ったテツヤくんに、私はこれでもかという勢いで首を横に振った。

「よろしく、お願いしますっ!!」

ついつい大声になってしまった私を見て、テツヤくんは嬉しそうに笑った。



End.


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