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□終わらない戦い
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人類が巨人の脅威に怯えていたのはほんの数年前のことだった。

壁の外側は無数の巨人で溢れ返り、人々はいつ巨人が壁を破って来るのかと怯えて暮らしていた。
食われるかもしれない恐怖に耐えながらの限られた土地での生活は様々な不便を強いられる。
食物不足に物資不足、壁外へ出ては負け続ける調査兵団に苛立ちをぶつけることもしばしばだった。
そんな日々を終わらせたのが、調査兵団の中でも精鋭と言われる者たちだった。

今、壁の外に巨人はほとんどいない。
その伝説ともいえる精鋭部隊が根源を断ったことによってほとんどの巨人が死滅したからだ。
人々はその精鋭の部隊を英雄と崇めて喜んだ。
人々は人類の勝利を確信してその精鋭部隊を敬意をこめてこう呼んだ。

『リヴァイ班』と。



人類最強と呼ばれる兵長リヴァイを中心としたそのリヴァイ班はほぼ全ての巨人を殲滅した。
頭脳ともいえるハンジ分隊長にアルミン隊員、調査兵団二番手と名高いミカサ隊員や団長であるエルヴィンなど実際はリヴァイ班ではないものも多数いたが、いつの間にかその全てを含めてリヴァイ班と呼ばれるようになった。
巨人の殲滅に調査兵団のほとんどが犠牲になったが、最後の最後まで生き抜き、残り一体になるまで戦い続けたリヴァイ班の腕は相当なものだった。
皆の希望と羨望の眼差しを受けて、残す巨人は残り一体となったとき、リヴァイ班は突如敗北を喫した。

人々は待てど暮らせど戻らないリヴァイ班に業を煮やした。
次に不安を募らせ、更には絶望した。
壁内には巨人と対峙した経験すらない駐屯兵団と憲兵団のみが残され、調査兵団は実質解散したも同然だった。
残されたたった一体の巨人さえいなくなれば人類の完全勝利だったというのに、そのたった一体に怯えて壁外へ出ることのできない人類はほんの数年前と何も変わらない。
そして、調査兵団の再結成に数年の時間を要したのだった。



今ここに外の世界に夢を馳せる少年がいる。
祖父の書庫から見つけ出した外の世界に関する書物を読み漁り、外の世界を旅してみたいと夢を見る少年だ。
残る巨人はあと一体、その言葉を聞いてならば自分がと名乗り出た少年は、調査兵団再結成の際に討伐チームへと抜擢された。
大人数で巨大な陣形を組んで大量の食物と物資を持って最後の巨人を探しだし討伐する、その長期に渡る遠征に胸を膨らませて旅立った少年は、どこかの誰かに良く似ていた。

そして、シガンシナ区からの出発の時が来た。
少年は大きな覚悟と小さな好奇心を胸に、壁外へと続く門をくぐったのだった。



外の世界はそれは大きかった。
どれだけ馬を走らせてもなくなることのない大地。
変わりゆく地形と天候。
炎の水、氷の大地、砂の雪原、全ては見れなかったにしても見たことのないものをたくさん知ることが出来た。
取りつくせないほどの塩水や見たことのない植物や生き物。
そして何処をどう進んでも巨人が出てくることのない事実。
最初は気の張り過ぎで疲れていた少年も、そのうち慣れて警戒心も薄れてしまっていた。
少年はこのまま巨人なんて現れなければいいとさえ思っていた。

しかし、そんな幸せな旅がずっと続いたわけではなかった。
寒さに凍えた日もあったし、暑さに倒れそうになったときもあった。
そしてそれを乗り越えて歩を進めていたある日、討伐隊の目の前に木製の壁が立ちはだかった。

目に見えて動揺している団長を見て少年にも緊張が走る。
どう見ても『人』の手で出来ていて、それでいてまだ新しい。
手入れもしっかりとしてあるし立ち上がっている煙からも『人』が住んでいることは間違いが無かった。
しかしだ、少年はある疑問を抱いた。

その壁はあまりに小さかったのだ。

残された巨人には知性があるとは聞いていたから壁を作るのには納得した。
しかし3mしかないであろう木製の壁が、本当に巨人が作ったものなのだろうかと少年は思った。
団長の手綱を持つ手が震えている。
木製の壁の向こうに見える塔の上に人影が見えた。
しかしそれは明らかに小柄で、その身長は少年と大差ない。むしろ少し小さいかもしれないほどだった。

「団長…?」

よく見ると青ざめた顔をしているのは団長だけではない。
数年前から憲兵団や駐屯兵団に所属していた隊員たちもなんだか顔色が悪いようだ。

「気を抜くなよ」

団長が震えた声で言った。
塔に見えた人影は飛ぶようにこちらへ迫ってくる。
それはまるで立体起動装置を使用しているような動きで、少年は驚きを隠せない。
いつのまにか木製の壁に巨人ではない『人間』が集まっていた。



「まぁ、来るとは思ってたけどね」
メガネの奴が気味悪く笑う。

「放って置いてくれればいいものを」
大柄な男性が言った。

「こっちはこっちでそれなりに楽しくやってるんですよ」
芋を齧りながら女が言った。

「まだ諦めていなかったのか」
小柄な少年が驚いた顔で言った。

「この恩知らずが!」
ガラの悪い馬面の男が顔を顰めつつ言った。

「覚悟はいい?」
無表情の女が冷酷に言った。



「エレンはやれねぇぞ」

驚くほど冷たい目をした男がそう言うと、そいつらは一斉に武器を構えた。


少年は混乱した。
敵は巨人ではなかったのか、エレンとは巨人のことなのか、だとしたらなぜ人間が巨人を守っているのか、今自分は戦うべきなのか。

少年は武器を構えたが動くことが出来なかった。
団長が信じられないことを叫んだからだ。



「全員心してかかれ!リヴァイ班だ!!!」




end.

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