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□朝起きると○○が隣にいた話
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@ペトラの場合


ペトラが朝、目を覚ますと目の前には誰のものか分からない首が見えた。
抱えられるように背中に回されている手はしっかりと固定されていて動かない。
少し上から聞こえる寝息が誰のものなのか考えた瞬間にペトラの顔は青くなった。
服を着ていないことに気が付いたのだ。
確かに昨晩は酒を飲んだ。
だからといって誰とでも寝るような軽い女になった記憶はないが、もちろん昨夜の記憶もないのだから何とも言えない状況だ。
隣にいるのが誰かはわからないが起こしてしまうのが怖い気がした。
でもこのままいるのも嫌だと思い、ペトラはすり抜けるように抱えられていた腕から抜け出した。

もうこれからは何をやっても後悔するのかもしれない。
抜け出して服を拾いながら恐るおそる振り向いたペトラは、固まってしまった。
オルオじゃありませんようにはとは思ったけれども、これはあんまりだとペトラは嘆いた。
初めて見る寝顔にどきりとしている場合じゃない。
これからどうやって顔を合わせたらいいのか分からない。
ペトラは半泣きになりながらも服を着て、自分の部屋から逃げ出そうとドアノブに手を掛けた。
その時だった。

「ペトラ」

背後から聞こえたリヴァイの声に、ペトラの身体は硬直した。
出来れば目覚める前に逃げ出したかったのだけれど、寸でのところでリヴァイが起きてしまったのだ。

「あ、あ、あの!」
「……覚えてねぇのか」
「はい!あの、すみません…」

ペトラが申し訳なさそうに言うと、リヴァイは「まぁいい」と言ってくれた。
そしてリヴァイはすこしだけ罰が悪そうに頭を掻くと、「悪かった」と言った。

なんだか泣いてしまいたい気分だ。

「いえ、私が酔ってたのが悪いんです」
「………」

ドアノブに手を掛けたままペトラは動けなくなっていた。
この先どうしていいか、ペトラは考えあぐねていた。
本当にもう酒は飲むまいと、そう誓ってもう一度手に力を込めたとき。
ペトラの背中にリヴァイの声がかかった。


「ペトラ、冗談で抱いたんじゃねぇぞ」

「…え?」

ペトラが振り向いたとき、リヴァイはもうシャツに袖を通していた。
そして立ち上がると上着を持ってペトラの横をすり抜けようとするリヴァイに、ペトラが引き留めるように声を掛ける。

「ど、どういう意味ですか!」
「もう二度と言わねぇからてめぇで考えて答え出せ」

そう言い残して、リヴァイはペトラの部屋を後にした。


「兵長の、送り狼…」

そう呟いたところで、リヴァイの耳には届かない。




―朝起きるとリヴァイが隣にいた話










Aジャンの場合


布団をまさぐる様に手を動かすとやわらかい毛に触れた。
これはなんだと開かない目をこじ開けながらさらに触れてみる。
柔らかい感触が心地よくて更に手を動かすと、暖かい素肌に触れた。
途端に脳が覚醒するように働き始めた。
ぼやけていた視界がクリアになっていくうちに、視界にとらえたのは綺麗な黒髪だった。

そしてこちらを真っ直ぐに見つめるその瞳こそ、決してこちらなんて向くことが無いと思っていた瞳だった。

「ミ、ミカサ!」

慌てたようにジャンがそういうと、ミカサは冷静に口を開く。

「昨日のこと、覚えてる?」

反射的に首を振るジャンに、ミカサは更に続けた。

「記憶を失くすほど飲むのは兵士としてどうかと思う。今日のことは忘れてくれても構わない」
「待ってくれ、昨日、やっぱり…オレ…」

縋る様に言ったジャンの言葉に、ミカサはコクリと頷いた。
それは昨晩そういうことがあったのだということを表していて、ジャンは赤面すると同時に頭を下げた。

「わ、悪いミカサ!オ、オレ!ミカサにはエレンがいるって知ってたのに…!」

布団に擦りつけるように頭を下げたジャンを見て、ミカサが黙り込んだ。
相変わらずの無表情に、ジャンは更に頭を下げる。
許されないことをしたのはわかっている、幾ら惚れていたと言え酔って押し倒すなんて、ジャンは自分が信じられない気分だ。

「エレンは家族だから」

しばらくしてミカサが口を開いた。

「別に、そういう関係じゃない」
「でもミカサはエレンのこと…」
「そういう風に見たことはない」

ジャンはミカサの言いたいことが分からなかった。
多分フォローしてくれていることだけはわかったが、ミカサの言わんとしていることはまだわからない。

「だから、あんなに真っ直ぐに…も、求められて…悪い気はしない」

確かにミカサの声だったのだが、ジャンは空耳ではないのかと思った。
信じられなくて頭を上げたジャンが見たのは、耳まで真っ赤に染めたミカサの姿だった。

ジャンは昨夜の記憶が無い事が、酷くもったいなく感じた。



―朝起きるとミカサが隣にいた話










Bミカサの場合


とんでもない悪夢だと思って目を覚ましたのに、隣にいる男を見た途端に夢ではなかったのだと思い知った。
昨夜の出来事をなかったことにしてしまおうとベッドに手を付いた途端、隣の男が目を覚ました。
いつもは半分しか開いていない鋭いその目が、大きく見開かれた。
それを見て、ミカサは男に記憶が無いのだと感づいた。
そういえば酒に弱いと聞いたことがある。

ミカサは眉間に皺を寄せて恨み言を言ってやるつもりだった。
すぐにでも上層部に言いつけて、しかるべき処分を受けてもらうつもりだったのに、何故かミカサの顔は赤くなるばかりだった。

「…………オレが、やったのか」

リヴァイが信じられないとでもいうように言った。
手は昨晩付けられたミカサの鬱血の上を右往左往している。

「あなた以外に誰がいるの」
「そう、か」

リヴァイは考え込むように手で顔を覆うと動かなくなった。
それを見て、ミカサは苛立った。
こっちはこんなにされて、力には自信があったはずなのにまるで歯が立たなくて、それでいてあんな恥辱を味わったというのに謝罪の一つもないのかと。
それをそのまま言ってやろうと口を開くのだけれど、どうしてもその開いた口からは声が出ない。
茹ったような頭をどうにかしなければと項垂れたミカサの口から出た言葉は、まるでか弱い女の子のようだった。

「どうして、あんなことを…」

自分で思ったよりもかなり弱々しい声になってしまって、ミカサは少し泣きたくなってしまった。

リヴァイは弱々しく放たれたミカサの言葉を聞いて少しだけ目線をミカサの方へと向けた。
そして、閉ざされていたその口がやっとのことで動き始めた。

「昨日のことは覚えちゃねぇが、動機なら心当たりがある」
「……?」
「…オレが、お前に惚れてるからだろうな」

それを聞いた途端に、ミカサの心臓がぎゅっと潰されたように苦しくなった。
そんなことは聞かなくてもわかっていたのだと、聞いてから初めて気が付いたのだ。

昨晩のリヴァイの手があんなにも優しかったのは身体が覚えている。
昨晩のリヴァイの声があんなに愛しむような旋律だったのは、この耳が覚えている。
そして、昨晩のリヴァイの表情があんなに切なそうだったのが、この目にはしっかりと焼き付いていた。

「今日一日私の言うことを聞くなら、水に流してもいい」

ミカサはそういうとリヴァイの部屋のドアを指差して、「コーヒー」と呟いた。
それを見て、いつもの無表情に戻ったリヴァイが少しの間の後に立ち上がる。

廊下に出たリヴァイの舌打ちの音を聞いて、ミカサはどうしようかと頭を抱えた。
絆されてしまっただなんて、エレンには絶対に言えそうにない。


―朝起きるとリヴァイが隣にいた話










Cエレンの場合


意識は浮上したというのに身体は痛くて動かない。
特にどこが痛いのかと問われれば、答えることができないようなところが痛い。
酒を飲みすぎるとこんなところが痛くなってしまうのかとエレンは考えたが、なんだか納得がいかなかった。
昨晩、エレンは上司に勧められるがままに酒を飲んだ。
しかし何度考えてもそこから先が思い出せない。
どうやってベッドに戻ったのかもいつ自分が服を脱いだのかも覚えていなくて、酒を飲んで記憶を失うということはこういうことなのかもしれないとエレンは思った。

起き上がるのはひとまず諦めてごろりと寝返りを打って目を開けると、そこは見慣れない部屋だった。

ここは地下室でもなければ兵士の大部屋でもない、個室だったのだ。
個室を与えられていると言えば思い浮かぶのは昨夜の上司たちだ。
エレンは少しだけ青くなった顔で振り向いた。
そして、そこに眠る上司の顔を見て「ヒッ」と悲鳴を上げたのだった。

「へ、兵長…!」
「………ああ」

丁度目が覚めたのか、リヴァイは上体を起こしながら欠伸をしている。
しかしエレンが気になるのはそんなことではなく、リヴァイも服を着ていないことだった。
自分も服を着ていない、そして痛む体の箇所。
考え付いたのは信じられないような行為だった。

「あ、あの、兵長、まさか…」
「覚えてねぇか」
「じゃ、じゃあ!」
「だいぶ飲んで朦朧としてたし、しょうがねぇな」

そう言って服を着始めるリヴァイを見て、エレンはなんとなく気に入らなかった。
あんなに焦がれたリヴァイと一緒のベッドにいるというのに、エレンは何も覚えていないなんて悔し過ぎた。


「兵長」

エレンはリヴァイのシャツの裾を掴むと口を開く。
リヴァイはと言えば、シャツが伸びるのを気にしてか、不機嫌そうにエレンを見下ろしていた。

「オレ、覚えてないんで、もう一回お願いします」

赤くなった顔はどう考えても隠す方法が見当たらなかった。
じゃあいいやと言わんばかりに、エレンは真っ直ぐにリヴァイの顔を見て言った。

そして、リヴァイはこう言った。


「悪くない」



―朝起きるとリヴァイが隣にいた話




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