zzzB

□ほんの少しだけ怖くていかがわしいお話
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桃井が帰宅したとき、何か違和感を感じたのは勘違いではなかった。
何が違うと聞かれたら返答に困るが、何かが違うと桃井は感じる。
鍵閉まっていたし家具の位置も変化はない、気持ちの悪い違和感の原因は分からず仕舞いだ。
一応大切なものがしまってある場所をチェックしてみるものの、無くなったものは特になかった。
若干の気味の悪さが後を引きながら、桃井はそれを拭い去る様にコートを脱いだ。
こういう時はお風呂に入って流してしまうのが一番だ。

桃井が一人暮らしを始めたのは社会人になってから一年経ったときのことだった。
一人娘が心配な親の「まだ先でもいいんじゃない」の言葉を振り切って一人暮らしを始めた手前、怖いからなんて理由で親に連絡などできない。
一人暮らしを始めて、まだ三ヶ月しか経っていないのだ。

シャワーを絞ってバスタオルで身体を拭いて、さっきまでの怖い気持ちも薄れてきたときのことだった。
ドスンと大きな音と共に部屋が揺れた。
そこそこ安いアパートのせいか、冷静に考えれば上の階の人だったのだろうが、桃井はさっきのこともありまた少し怖くなってしまった。
折角流した恐怖感が甦ってきて、桃井は震えた。暖まった身体が段々と冷えていくのが分かった。

流石にこのまま一人で寝るのは怖い。
だからといって誰かを呼ぶのも気が引ける。
いっそのこと怖い映画を見たからと言い訳をして青峰を呼んでしまおうかと考えたが、バカにされるのが目に見えているので流石にそれはしなかった。
が、桃井はそんなことは一瞬で忘れた。
電灯を消してベッドに潜り込んだ瞬間に、窓の外に見えてしまったのだ。
車が通り過ぎる瞬間、そのヘッドライトに照らされてこちらをさかさまに覗いている頭のような影を。

それを見た瞬間に桃井は悲鳴を上げた。
しかし流石は都会、誰かが助けに来てくれるはずもなく時間は過ぎていく。
カーテンには通り過ぎていく車のヘッドライトが当たるが、さっきの頭のような影は消えてしまっていた。

だからといって桃井の恐怖が消えたわけではない。
もう恥なんて気にしている場合じゃないと青峰の携帯を鳴らす桃井の指は、震えていた。






「でね、ドスンって音がして、」
「へー…」
「もう大ちゃん!ホントなんだってば!」
「で、そのあとは?」
「そう、それで、上から逆さまの頭みたいな影がこっちを覗いてたの!」
「………」

疑わしそうな目を向ける青峰に、桃井はご立腹だった。
自分が見たものは紛れもない事実だし、だからこんなにも必死になっているのに、青峰はきっとそれを信じていない。
それがこちらへと伝わってくるのだから桃井もかなりイライラしていた。
それはこんな時間に駆け付けてくれた青峰には感謝しているが、相手が幼馴染では桃井もなかなか素直になれない。
めんどくさそうにベッドに横たわる青峰にため息を向けるものの、それ以上文句を言う気にもなれなかった。

「もう寝ようぜ、ねみぃ」
「うん…」

眠そうに欠伸をする青峰に、もうこれ以上は何も言うまいと桃井は電気を消した。
これでおばけが出ても青峰がいるのだから大丈夫なはずだ。
幼馴染がいるというのはこういう時に便利だと桃井は思った。

布団に潜り込んでから少し経って、暗闇の中で青峰は携帯を取り出した。

「大ちゃん?」
「んー…」
「寝る前に携帯弄ると眠れなくなるよ?」
「ああ、ちょっと待て」

青峰はそういうと携帯を見ながらあちこちと体勢を変えた。
奇妙な動きに疑問符を浮かべる桃井に、青峰が携帯を閉じて言った。

「てか、」
「え?」
「さつきのベッド狭すぎ。オレ足はみ出てんだけど」
「しょうがないじゃない!標準サイズだもん」
「オレはそれじゃ小せぇんだよ。これじゃ寝れねぇよ」
「え、帰っちゃうの…?」

青峰の文句に桃井が不安げにそういうと、青峰は電灯をつけながら言った。

「オレんちにしようぜ」

先ほど変なものを見てしまったこの部屋を出れるなんて、桃井は考えても見なかった青峰の珍しくナイスな提案に二つ返事で乗った。







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