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□青桃がくっついてからプロポーズするまで
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桃井が恋心を自覚し始めたのは、奇しくも振られた瞬間だった。
振った相手はもちろん長年焦がれ続けた黒子であったが、振られてむしろすっきりしている自分に桃井は驚いたりしたものだ。
お互いに部を引退する時期に今ならば支障にならないだろうと桃井が想いを告げた時、黒子は困ったように笑って言ったのだ。
『お気持ちは嬉しいのですが、答えるわけにはいきません』と。
その言葉の裏にある想いを読み取ってしまうことは、桃井にとってあまりに簡単すぎた。
気付いた瞬間に恥ずかしさが限界点を超えて、桃井は走り去った。
自室で悶々と一日を過ごして冷静になってから再度黒子に電話を掛けると、謝罪する黒子に負けるものかと桃井は見える筈のない頭を下げたのだった。


自覚してからは、桃井は想いを隠すのに全神経を注いだ。
この距離を変えてはいけない、そう思って同じ大学へ進学し同じ部に入部して同じようにマネージャーをした。
相変わらず噂はついて回ったが、大学生にもなるとそんなことも気にならなくなってくる。
そう自分に言い聞かせてその通りに振る舞って二年が過ぎたとき、自分が一体何をしているのか分からなくなった。
小さなときからずっと変わらない距離、世話を焼くのは嫌いではないし寧ろ好きな方だが、この関係が変わらないのなら何の意味があるというのだろうか。
横から掻っ攫われたら何もかもおしまいではないか。
桃井は一つ上の美人の先輩と仲良さそうに話す青峰を見て、体中の力が抜けてしまったかのように立ち尽くした。

「さつき?」

持っていたタオルが床に落ちたのに気付いた青峰が振り返った。
青峰はタオルを拾うと桃井の手を引いて部室へと向かった。
手を繋いだのは何年振りか、思い出せる限りでは中学高校とつないだ記憶はない。
もしかしたら記憶にないだけで緊急時には繋いでいたのかもしれないけれど、少なくとも黒子に夢中だった桃井の記憶にはなかった。
部室のベンチに座らされて、青峰に「どうしたんだよ」と話しかけられて、やっと涙が零れた。
ギョッとする青峰を尻目に、止まらなくなった涙を持て余した桃井はしゃくりあげるように泣き始めた。
こうなっては自分にもどうすることも出来ない。
さっき床に落としたタオルで涙を拭きながら、青峰は桃井の頭をくしゃりと撫でた。

「どうした?失恋でもしたか?」
「これから、するかも、しれない」

桃井はしゃくりあげながらやっとのことで答えた。
それを聞いて青峰は「やっと告んのか」と何やら的外れなことを言った。
そういえば、桃井は黒子に振られたことを誰にも話していなかった。

「大ちゃん」
「あ?」
「好き」
「うぉ!?」

「テツじゃねえの?」なんて驚いた顔で言う青峰を見て、桃井はコクリと頷いた。

「テツ君には、もうとっくに振られてるよ」
「マジで?いつ?」
「二年ちょい前くらい」
「マジで?」
「マジだよ」

「……なんだよ、早く言えよ」

そう言って青峰は隣に腰かけると桃井の頭を抱き寄せた。

「めちゃくちゃ待った」

上から聞こえる声は間違いなく大好きな幼馴染の声で、なのに桃井は一気に体温が上がるのを感じた。
いつの間にか止まっていた涙のあとを拭いて顔を上げた瞬間、桃井は青峰に唇を奪われた。
それが人生初のキスで、その相手は人生の大半を共に過ごしてきた幼馴染だということが、桃井にはどうしようもないほど嬉しかったのだ。
深くなっていく口づけに必死で耐えて、更に口づけが深くなってベンチに押し倒されたところで初めて異変に気が付いた。
これは、マズイ。
やっとのことで唇を解放された桃井が大きな声で言った。

「大ちゃん!ここ、部室!」
「…あ」

「わり」と言いながら頬を染める青峰を見て、桃井はもしかして彼も精いっぱいだったのかと考えた。
もしそうならば可愛いなどと考えたことは青峰には内緒だ。
この幼馴染を可愛いなどと思う日がこようとは、ついさっきまでは夢にも思っていなかった。


今までもずっと一緒にいた幼馴染と恋人同士になったからといって周りがそれに気付くはずもなく、なんとなく言い出す機会を逃し続けていた。
青峰は一時期の粗暴さからは想像もつかないほどに優しかった。
面倒だと言いつつも桃井の買い物にはいつも付き合ってくれるし、なんだかんだと文句を言いながら荷物も持ってくれる。
思い返してみれば、青峰は最初から優しかったのだと気付かされた。
幼馴染なのに、見えていないこともあるものだと桃井は思った。



初めての夜は本当に不思議な夜だった。
いつものように部屋で一緒に過ごしていると、青峰が覆いかぶさってきた。
桃井が目をまん丸く開くと、赤く染まった顔の青峰が見えた。
その瞬間にそういうことだと理解した。
青峰はいつでもいきなり過ぎる。桃井はもう少しわかりやすくしてほしいと思いながら、ただ慌てた。
どうしていいか分からずにただパニックになって遮るように伸ばした手を摑まえられた。
そして真っ直ぐに桃井の顔を見て、青峰は口を開いた。

「誰のせいでこの年まで童貞だと思ってやがる」

さっきまでどうやって逃げようかと考えていた桃井の想いが、180度逆を向いた。
あれだけ性欲に従順だった男が、未だ未経験なのは自分を想ってなのかと考えると、桃井は思わず顔が綻んだ。

「大ちゃん、初めてなの?」
「わりぃかよ」
「いや、嬉しいけど…」
「……っ!」

青峰が顔を赤く染めて逸らした。
惚れた弱みか、そんなことをされては絆されてしまう。
少しだけ強く握られた腕はもう抵抗の意志が無い。
しっかりと確かめるように肌に触れていた青峰の大きな手が、桃井の大きめの膨らみに触れた。
それは本当に不思議な感覚で、見慣れているはずの幼馴染が別人に見えた。
いつでも一緒にいたはずの青峰にこんなに胸が高鳴る日が来るなんて、少し前までの桃井には想像もつかなかっただろう。
熱に浮かされる感覚の中で、二人は何度も見つめ合っては何度も胸が痛くなった。

「さつき」
「大ちゃん」
なんて名前を呼びあう度に、何度でも恋に落ちていく。





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