WEB拍手ログ

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初めての出会いが最悪であったせいで、悪い印象がこびりついていたらしい。


目の前の扇七郎をみて、意外としっかりしていることに正守は驚いていた。扇六郎に「弟」の話を聞いていたせいか、どうも良守と同じようなタイプだと思い込んでしまっていたようだ。喪服のごとく黒いスーツに身を包み、背を伸ばしてこちらを悠然と見据えて来る様は独特の威圧感があり、あぁなるほど彼は正統後継者なのだな、と正守は実感する。
『存在自体が特別な人間』。
力が自ら足元に跪き、頭を垂れて主から命令を下されるのを待っている・・・


対面する二人の「選ばれし者」、その内の一人である良守が七郎に食ってかかるのを正守はなにも言わず見つめていた。正統後継者としての立場を同じくしながら、「守る者」と「殺す者」と相反する要素を持つこの二人の会話に興味があったのだ。

『なんで人を殺すんだよ!』

良守らしい、シンプルかつストレートな問いだ。単なる子供の癇癪とも取れるこの問いに七郎は本気で答えてくれたようだった。

『僕だけがこの流れから逃げ出すわけにはいかないんだよ』

まだ若いはずの青年の顔が一気に老け込んだ。まるで長い長い時を生きてきた老人のような表情に、良守の目が大きく見開かれる。正守も青年の死人のような顔から目を逸らさずにはいられなかった。

・・・なるほど、この青年も虜囚であったか。あれだけの力を持ちながら。

古い血と因習で出来た籠に自ら閉じ込められる事を選び、良しとした、それが彼の選択であり誇りであるなら何も言うことはない。ただ、
・・・お前の守ろうとしているものはそんなに価値のあるものなのか?自分の兄を殺してまで―――

扇家にとっては、兄弟などその程度の価値しかないのかもしれない。打ち捨てられた六郎、彼がそれを証明している。そんなことを考えていると、七郎が「恩がある」などといいだしたため、正守は驚いた。

『六郎君はどうしてる?』

話のついでに気にかかっていた六郎の状況を尋ねてみると、それまでこちらをしっかりと見据えていた七郎の視線が急に逸らされた。丁寧だった動作や口調も崩れ、どこか落ちつかない様子がまるで普通の高校生のようだった。言いにくそうに、六郎が家出したことを告げると、

『僕、嫌われているんです、兄に。』

そういって笑う。困ったような、泣き出しそうな、でもどこか嬉しそうな、そんな幼い笑顔。
これは正統後継者という称号を剥いだ彼自身の笑みだった。先ほどの死人のような顔をみた後では、その違いがあまりにも際立っている。

七郎は今自分がどんな表情をしているのか気が付いているのだろうか。
自ら鳥籠に捕らえられている青年はきっと見えていないに違いない。
その方がいいのだろう。見えなければ
扇家のためにすべてを注ぐ、最高の継承者でいられる・・・







正守は、この時初めて「正統後継者」を心から哀れんだのだった。




(おわり)

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