テキスト4

□ログ19
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空から一望出来る景色など見飽きてはいるものの、時が満ちようとしている今なら感慨深く見下ろすことが出来た。網目状にはられた道路。行き交う自動車。その間に立ち並ぶ閑静な住宅街。どれもこれも、彼が人間として生きていた頃には存在しなかったものだ。

400年だ。400年待った。

その年月を噛み締めながら、こちらを剣呑な目線で見つめる扇家の時期正統に、時守は顔を向ける。かつての二蔵に良く似た美しい彫像のような顔。今は意志の強そうなこの顔も、いずれは深く刻まれる絶望という名の皴に埋もれていく。

礎となるべき可哀想な子供達よ。運命に従って、与えられたものをひたすら受け入れてきたのだろう?嘆き、苦しみ、怒り、自分という存在に迷い続け、納得したフリをしながら日々を消化していく。

ああ、良く分かるとも。

分かるからこそ。時守は彼らが最も必要としている言葉を選び出すことが出来た。



子どもを救いたいのだろう?
誰も傷つけたくないのだろう?
・・・自由に、なりたいだろう?



扇七郎の、こちらを見る疑わしげな目線の中に、真実への隠しきれない欲求を読み取って、時守は深くかぶった帽子の影で笑いをかみ殺す。


君達の欲しいものをあげよう。幾らでも。
もう惜しいものなどありはしない。自分はこの為に、





――――この日、この時、この犠牲の為に、長き時を耐え忍んできたのだ。





月の無い夜空を仰ぐ。この空だけは400年変わることがなかった。この身に馴染んだ、光の見えない漆黒の空に時守は語りかける。















さあ、悲劇を終わらせようじゃないか。







(おわり)
22.4.5

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