短編小説

□佐保姫
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「いってーな、引っ張んなよ」

ジャラっと、手枷につながれた鎖が鳴る。


久しぶりに見た、外の世界。

太陽の眩しさが目にしみる。


(何だ、この人だかりは
祭りでもあんのか?)


音も光もない世界で、
どれだけの時を過ごして来たのか分からない。

耳をつんざくような人々の声を聞きながら、その男は石畳を歩いていく。


「佐保姫が来たぞー!」

(あぁ、転換期か。)
無感動に、心が思う。


30年に1度訪れる転換期。

高い神格値を持つ4人の守護者が統括地を移動する時期。


鎖を引く従者の足が止まる。

人の壁で、男の足も進まなくなる。


佐保姫がここへ来る
ということは、

今日は120年に1度の守護帰還期だ。


「あーぁ、俺もあの人に付きたかったよ」

「せめて名前くらい覚えてもらいたいよなー」


守護者は、その統率を維持するために長命であるが、怪我の治癒に時間がかかる。

そのため、常に数名の従者を連れている。

守護者の足下にも及ばない神格値で、その存在に意味などあるのか疑問が残るところだが。


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