短編小説
□佐保姫
1ページ/6ページ
「いってーな、引っ張んなよ」
ジャラっと、手枷につながれた鎖が鳴る。
久しぶりに見た、外の世界。
太陽の眩しさが目にしみる。
(何だ、この人だかりは
祭りでもあんのか?)
音も光もない世界で、
どれだけの時を過ごして来たのか分からない。
耳をつんざくような人々の声を聞きながら、その男は石畳を歩いていく。
「佐保姫が来たぞー!」
(あぁ、転換期か。)
無感動に、心が思う。
30年に1度訪れる転換期。
高い神格値を持つ4人の守護者が統括地を移動する時期。
鎖を引く従者の足が止まる。
人の壁で、男の足も進まなくなる。
佐保姫がここへ来る
ということは、
今日は120年に1度の守護帰還期だ。
「あーぁ、俺もあの人に付きたかったよ」
「せめて名前くらい覚えてもらいたいよなー」
守護者は、その統率を維持するために長命であるが、怪我の治癒に時間がかかる。
そのため、常に数名の従者を連れている。
守護者の足下にも及ばない神格値で、その存在に意味などあるのか疑問が残るところだが。
.