短編小説

□見上げてごらん
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両手をコートのポケットに突っ込んで、袖口とポケットのわずかな間に手袋の赤色が覗いている。
そしてマフラーを巻いた首を亀のように引っ込めて登校してきた。


「おはよー」
テンションの低い声で挨拶して夢人が背中にのしかかる。
「重い…」
「寒い…」
「俺で暖を取るな!」
リュックを背負った夢人は11月なのに完全防寒で教室に入ってきた。
そして、まだ「寒い」と。
確かに暖房はついていない。だがHRぎりぎりのこの時間、窓はほとんど閉まっている。
「もしかして、それで今日の朝練来なかったのか?」
「そう…」
「そんなんじゃ今度は準レギュも取れないぞ?」
「やだ。でも寒いのもやだ」
「今日はお前の大好きな芥川先輩も来てたのに」
「マジ!?何でもっと早く教えてくれなかったんだよ!?」
「お前がサボるなんて思ってなかったし」
「マジかよー…昨日まで真面目に出てたのにぃ」
「HR始めるよー」
担任が教室に入ってきて夢人は渋々コートを脱いだ。
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