捧物

□過現(かげん)
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「・・・ふぅ」
昼下がり、新たに住む長屋の掃除を終えた秀は、額の汗を拭いながら息を吐いた。手持ちの銭で生活に必要な物を買い揃え、それなりに『暮らし』ができた一間・・・角部屋で隣が空き家なら、夜なべしても周囲に迷惑は掛からないだろう。
「さて・・・と」
釜はあっても米は無し。残りの金を全て細工用の銀に換えてしまい、空腹を抱えて横になる。江戸に戻って数日・・・旅の疲れもあってか、仕事に取り掛かる気力が湧いてこない。
「作らねぇと・・・飯、食えねぇよなぁ・・・」
呟いて寝返りを打つ。

“・・・いちじく、にんじん、さんしょに・・・”

「?」
外から聞こえてくる、子供達の楽しげな歌声。身を起こし、しばし耳を傾ける。
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