頂き物

□酔っ払い部下と面倒見の良い上官
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愛らしい女性達と一緒に食事をするのは楽しい。或いは、麗しい女性達と一緒にグラスを合わせ夜を語り明かすのもまた格別だ。
マスタングにとってはどちらも良い夜の過ごし方ではあるのだが、その日はなんとなく1人で飲みに行こうと思った。
なので、その日の仕事(ホークアイに怒られて渋々)を片付けると行き付けの店に行った。
すっかり顔馴染みの店主に軽く挨拶をして席に腰を下ろす。明日も朝から仕事があるので飲まれる程飲むつもりはない。

「―――お客さん、その辺にしといたらどうですか?」

マスタングの後ろから、店員の気遣う声が聞こえてきた。どうも、後ろの席の客は随分飲んでるらしい。
あまり後ろに意識を集中させていなかったので、客が何と返答したのかまでは聞いていない。
しかし、店員が苦笑して立ち去った所を見ると、恐らく忠告を聞かなかったのだろう。
ヤケ酒でも煽っているのだろうかと思いつつグラスの水を飲み、メニューを開いてさて何にするかと考え始める。

「(ああ、今日のお勧めは何だったかな・・・)」



「・・・やっぱり少尉は、ボインが好きなんだ」



「―――――ッ!!??」

それはもう盛大に、マスタングは口に含んだ水を思いっきり口から噴出した。世の女性にはあまり見せたくないシーンだ。
おまけに若干水が気道の方に入りむせ込んだ。同様に格好良い姿では無い。

「ゲホ、ゴホ・・・ッ!!な、何だと!?」

背後から聞こえた小さなこの声とこの台詞には非常に聞き覚えがあった。
マスタングは、グラスを思いっきり机に置くと、勢い良く後ろに振り向いた。

「―――ファルマン!?」

後ろでは、予想通り自分の部下が背中を向けて酔い潰れていた。

「おい、どうしたんだこんな所で?」

驚きつつ席を立ち、ファルマンの隣に立つ。真っ赤な顔をして、グラスを片手に何か呟いている部下に戸惑いながら声を掛ける。

「・・・マスタング大佐・・・?」
「(確か、ファルマンは酒に強くなかった筈だが)大丈夫か?」
「・・・どうせ、どうせ俺はボインじゃないから・・・」
「何の話だ!?いや、お前男だからボインは無理だろ!」
「大佐、錬金術でボインにとか出来ないんですか・・・」
「待て待て待てぇぇえええ!!」

完全に酔っている。いや、酔っている等と可愛いものではない。これは明らかに泥酔レベルだ。
目がいつもより開眼しているのに、虚ろだった。いつもの冷静さというか落ち着きは微塵も無い。常識がぶっ飛んでいる。

「落ち着いてよく聞けファルマン、錬金術でボインは無理だ。というかお前男だからな?分かるな?」
「・・・ボインは無理ですか」
「ど、どうした?ハボックと何かあったか?」

いつもボインが好きだとよく言っているハボックではあるが、それはファルマンも重々承知の筈だ。
だから、意味も無くボインの事で落ち込んだりはしない。勿論、ヤケ酒を煽る筈も無い。

「じゃあ豊胸手術とか「ファルマンお前、頭は大丈夫かっ!?」

マスタングは思わずファルマンに掴みかかった。どっかで頭でも打ったか、変な物でも食べたのではないかと心底心配になった。
目の前に居るのは本当に自分の部下か疑いたくなる。

「妙にリアルに考えるな!無理だ無理!」
「・・・私なんて明るくないし」
「別に良いだろう、お前がハイテンションだったら逆に驚く」
「・・・性格も良くないし」
「お前は良い方だと思うぞ」
「・・・美人じゃないし」
「いやまあ、「美人」という表現は違うかもしれないが」
「そうですよね、やっぱりボインじゃないと駄目なんですよね・・・」
「(・・・母国語を話しているのに会話が成り立たない場合はどうしたらいいんだ!!)」

普段酔っ払う姿をあまり見た事がないので貴重ではあるが、どうやって収拾をつけるべきか悩んだ。
しかし、確信はあった。現状から判断するとほぼ100%、あの金髪銜え煙草のボイン好きが元凶だと。

「どうした?お前の目の前でボインに抱きついたとか、ボインを口説いたとか、ボインに顔挟んだとかか?」
「・・・違います」
「じゃあボイン(の女)にキスでもされてたか?」

言っておいて、こんな選択肢ばかり出てくる事に少し呆れた。
普段が普段なだけに仕方ないのではあるが、顔を挟むはないだろうと自問する。
その時、下を向いたマスタングの視界に、グラスを掴んで震える手が目に入った。そのまま、机にポタポタと雫が落ちる。

まさかと思って顔を見ると―――ファルマンがボロボロ泣いていた。

「ど、どどどどうしたファルマン!?図星か!?」
「・・・大佐ぁ・・・」
「泣くな、聞いてやるから泣くんじゃない!」

こんな所で話す内容じゃ無い事も、他の客が居る事も分かっていたのだが、それどころでは無かった。
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