過去拍手お礼SS
□乗って行きませんか?
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拍手お礼SS第11弾☆
『乗って行きませんか?』〜前編〜
・・・・・・・・・・・・
「悪いな〜、バイト休みの日に買い出しにつき合わせちまって・・・俺一人じゃ選べないモンもあったし、お前が居てくれて助かったわ」
「いえ、いいんですよ真咲先輩。今日は部活も無いし、・・・何も予定ありませんでしたから・・・こちらこそ誘ってくれてありがとうございます」
「お、良い返事だ!後輩の鑑、二重マルだな」
花屋アンネリーのアルバイト仲間でもあり先輩と後輩の仲でもある2人は、日曜日の商店街に買い出しに来ていた。
なんでも、アンネリーの店長が真咲に春用の店内ディスプレイを任せたらしい。
無事に春色の布やテープ類の買い物を終え、今は商店街の路上のパーキングエリアに停めた真咲の車まで、荷物を抱えて歩いている途中だ。
・・・昨晩真咲から、
「買い物に付き合ってくれ」
と電話がかかってきた時は一瞬戸惑ったけれど・・・・
(・・・今日は若王子先生の課外授業も無いし、・・・デートのお誘いも無かったから・・・お店の為にも真咲先輩についてきて良かったかも。でも若王子先生、今頃何やってるのかな・・・)
想い人の顔を思い出し、小さく溜息をつく。
「・・・・なのか?・・・おい、聞いてるか?」
「は、はいっ、何でしょうか、真咲先輩?!」
どうやら考え事に集中しすぎて、真咲の話を聞き逃してしまったようだ。
いつのまにか辿りついていた愛車の前で、ドアにキーを差し込みながら真咲が頭を掻いた。
「お前なぁ・・・せっかく俺が勇気を出して話してんのに、肝心な時に聞いてないのかよ・・・」
「す、すみません先輩!ちょっと考え事をしてて」
・・・でも、勇気を出した・・・って?
「・・・じゃあもう一度言うぞ。またこうやって、お前と出掛けられたらいいな、って言ったんだわ。・・・仕事抜きで、な。どうだ?」
「えっ?そ、それってデート・・・でも、あの・・・わたし」
困惑気味にうろたえると、それだけで真咲が察したように溜息をついた。
「・・・そっか、わかった皆まで言うな!・・・お前好きなヤツ・・・」
真咲が続けようとした、その時。
「やや?真咲君?・・・それから・・・」
「あ・・・若王子先生・・・!?」
パーキングエリアの横の歩道から、ビニール袋を片手に下げた若王子が現れた。
「こんにちは。・・・今日はどうしたんですか?二人でお揃いで」
若王子はニコリと微笑んだけれど、二人を見つめる表情はどこか曇っている。
持っていたスーパーのビニール袋が、カサリと音を立てた。
「あの、今日は部活も無かったし、たまたま他の用事も無かったので、そのっ・・・お店の頼まれ事で買い出しに来ただけなんです!だからデートとかじゃ」
(先生に誤解されちゃったらどうしよう)
その一心で、懸命に弁解する。
「や・・・そうでしたか。先生は、猫用の缶詰を買いに行ってきました。そこのスーパーで大安売りだったものですから。ほら、たくさん」
先程よりは柔らかい笑顔で微笑むと、若王子は袋の中を軽く開いて見せた。
真咲はしばらく無言で2人の会話を聞いていたが、
(・・・ははあ。そういうことか。・・・たく、俺には見せなかった表情しやがって)
嬉しそうに頬を染めて話す目の前の少女に苦笑いを見せると、真咲は急に2人の間に割って入ってきた。
「あー、すいませんね若王子先生。俺たちは買い物も済んだんで、これから2人で仲良くドライブにでも行こうかと。・・・な?」
「え?先輩そんな事一言も・・・」
「ほ〜ら、いいからお前は俺の『愛車』に乗った乗った!どこでも好きな場所に連れてってやるぞ〜?はばたき山か?森林公園か?お前が望むなら、学校の帰りも車で送ってやるぞ!?」
「急にどうしたんですか真咲先輩・・・きゃっ!」
真咲は無理矢理助手席に押し込むと、バタンとドアを閉める。
「・・・じゃ、若王子先生。俺達、もう行きますね。先生も、良い休日を」
真咲の言葉に若王子は、何かを言いたげにしばらく真咲を見つめていたけれど。
ニコリと微笑むと、ようやく口を開いた。
「・・・はい。安全運転で、気をつけてください。・・・彼女を宜しくお願いします」
「・・・どーも」
真咲は一言だけ返事をして自分も素早く運転席に乗り込みエンジンをかけると、早々にその場から車を走らせた。
歩道に残された若王子が、みるみる小さくなる。
「若王子先生・・・」
助手席で後ろを振り返りながら、震える声でその名を呟く。
それを聞いて、運転席の真咲がはあっ、と肩を落とした。
「・・・全く、お前はわかりやすいなぁ、お陰で俺が落ち込む暇もねえわ。それに引き換えなんだよ、あいつ。余裕かましやがって・・・それとも本気で興味無いってか」
「・・・先輩?どうしたんですか?さっき歩道で若王子先生と何をお話していたんですか・・・?」
「・・・お前には内緒だ。さ〜て、今日はもう帰るか!」
自分に言い聞かせるように大きな声で叫ぶと、真咲はグッと車のアクセルを踏んだ。