過去拍手お礼SS

□内緒の赤チョーク
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拍手お礼SS第9弾☆

「内緒の赤チョーク」

・・・・・・・・・・・・・


「じゃあ、後は頼むな・・・悪ィけど」

「うん、日誌もあと少しで書き終わるから大丈夫。ハリーもバンドの練習、頑張ってね」

「おう!うわ〜、まだ雨降ってんのかよ・・・さみ〜!」



放課後の教室。

「さてと・・・書きますか!」

誰も居ない中、一人座席に座り学級日誌を書く。

外は昼過ぎから小雨が降り始めていて見るからに寒そうだ。

一緒に日直だった針谷は、バンドの練習があるために先程帰ってしまった。

けれども自分は、面倒くさいからと他の生徒は毛嫌いする日直の仕事も、放課後居残って日誌を書くのも、嫌いでは無い。

・・・むしろ、好きだ。


(だって日誌を届けに行けば、若王子先生に会えるんだもんね・・・!)

担任の若王子とはいつも教室で顔を合わせているけれど、放課後に二人きりで会う機会というのは頻繁にあるわけでは無い。

担任教師に恋する自分にとっては、日直の仕事は何かと嬉しいチャンスなのだ。


「これでよし・・・誤字脱字もナシ!」

無事に日誌を書き終え、何度も見直しをするとパタリと表紙を閉じた。

若王子が目を通すと思うと、文字も自然と丁寧になる。

「あとは、黒板を書きなおすだけね」

日誌を手にすると座っていた自席から立ち上がり、黒板の日付と日直の名前を書き直すために黒板に近づく。

黒板消しを手に取り先ずは針谷の名前を消したところで、

(あ・・・そうだ!)

ふと、ある事を思いついた。


教室内をキョロキョロ見回し、ドアから顔を覗かせて廊下にも誰も居ない事を確認すると、再び黒板の前に立つ。

そして白いチョークを手に取ると、取り残された自分の名前の横に、

『若王子』

と丁寧に書きこんだ。


(・・・書いちゃった・・・)

自分の名字の横に書かれた若王子の名前になんだかくすぐったい気持になりながらも、誰も見ていないのを良い事に若王子の名の横に赤いチョークでハートマークを書き添えてみる。

「・・・完成っ!」

カタンとチョークを放し、持っていた手をいつも若王子がするようにパンパン、と叩く。

そして目についた近くの座席に座ると、黒板の文字をじっと眺めた。


「ふふ・・・なんだか、不思議」

黒板に並んだ名前を見ていると、まるで若王子が同級生になったようで。
それだけで二人の距離が急に近づいたような気になる。


折角書いた想い人の名を消すのが惜しくてついつい時間を忘れて見入っていると・・・


「・・・日直さん、お疲れ様。日誌は書き終わりましたか?」

突然教室の後ろのドアから声が掛った。

その声の主は、まさしく。

「わ、若王子先生っ!?」

座っていた椅子から急に立ち上がると、ずれた椅子がガタンと大きな音をたてた。
思わぬ本人の登場に、顔が赤く染まる。

「ごめんなさい、ビックリさせてしまいましたか?なかなか日誌が届かないのでどうしたのかと思いまして・・・先生、見に来ちゃいました。やや、顔が赤いです。大丈夫ですか?」

「は、・・・はいっ!だ、大丈夫、です!!」

あわてて座席を元に戻す。

座っていたのは他人の席なのだから怪しい事この上ない。
けれども若王子はその事には特に触れずに話を進めた。

「やや、もう一人の日直の針谷君はもう帰ったんですか?」

キョロキョロと教室を見回すふりをする若王子。

「は、はい・・・ハリーは用事があって随分前に帰りました」

「ふむ、そうですか。・・・それならひと安心です」

「・・・え?何か言いましたか、先生?」

「や、何でもありません」

ニッコリ笑うと、若王子は後ろのドアから教室の中へ入って来た。

・・・ドキン、ドキン。

いつもとは違う意味で、心臓が高鳴る。

(・・・どうか、気がつきませんように・・・!!)

なんとか若王子の視線に入らないようにと、黒板を遮るように立つ。

「一人で大変だったでしょう。日誌は書き終わりましたか?」

「は、はい!書き終わりました・・・こ、これです」

そのまま不自然な動きで移動すると、若王子に日誌を手渡した。

受け取った若王子はその場でパラリとページをめくると、フムフム、と頷きながら日誌を眺める。

「・・・うん、とても丁寧に書いてくれたんですね、ありがとう・・・読みやすいです」

若王子はニッコリと微笑むと、窓の外にちらりと視線を向けた。

「ややっ、雨。雪になりそうですね」

その言葉につられて外を見る。

「本当ですね・・・もうみぞれになってるみたいです」

天気予報を見て来なかった自分が悪いのだけれど、今日は傘を持ってきていない。

日誌を褒められた喜びもつかの間、濡れて帰るのを覚悟で小さくため息をつくと。

若王子がパタリと日誌を閉じて口を開いた。

「・・・傘、持ってきてないの?」

「え?」

自分の心を読まれたのかと思うくらいにタイミングの良い質問に驚く。

「は、はい・・・今日は降るとは思っていなかったので・・・」

「それは大変です」


若王子は二、三歩足を踏み出して黒板に近づくと、笑みを浮かべて赤いチョークを一本手に取った。

「せ、先生・・・あのっ・・・?」

黒板に近づかれて再び心臓が高鳴りだす。

「・・・傘なら、先生が持ってきています」

いつの間に気がついたのか。
若王子は黒板に並んで書かれた二つの名前を見つめると、腕を伸ばしてサラサラと慣れた手つきでひと筆描きをする。

「良かったら、一緒に入りませんか?」


そう言って持っていた赤いチョーク置き手をパンパンと叩くと、満面の笑みで微笑んだ。












おしまい☆

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