過去拍手お礼SS
□魔法のペン
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拍手お礼SS第八弾☆
『魔法のペン』
・・・・・・・・・・・・
「やや、ごめんなさい・・・今朝、教頭先生に言われたばかりなんです。くれぐれも、生徒からの誕生日プレゼントは受け取らないように、って」
「・・・そうですか・・・わかりました・・・」
9月4日、今日は若王子の誕生日。
若王子に想いを寄せる一心から、一週間前から計画を立ててプレゼントを考えた。
若王子が流行に敏感だという事も調べたうえで選んだプレゼントは
『最新ナウい言葉辞典』
・・・だったのだけれど。
(受け取ってもらえなかった・・・)
ペコリと一礼すると、若王子に渡すはずだったプレゼントを胸に抱き、隠すようにしてその場を立ち去った。
「・・・仕方が無いんです、ごめんなさい」
その後ろ姿を見送った若王子は、ぽつりと呟いた。
今日は朝から沢山の女子生徒たちが自分のもとに誕生日プレゼントを持って来ていた。
その度に、同じ断り方をしているはずなのに。
同じ台詞を口にしているはずなのに・・・
何故か、胸の奥がチクリと痛む。
断った時の彼女の顔が、頭にこびりついて離れないのだ。
・・・表向きは笑っていたけれど、泣くのを我慢しているようにも見えたような。
彼女が大事そうに抱えていた長方形の包みは綺麗にラッピングされていた。
あの形から見ると、おそらく本か何かだろうか?
・・・きっと、自分の為に色々考えて選んだに違いない。
「・・・やや、もうこんな時間です。急がないと授業が始まっちゃいますね」
自分が教室に行かなくては授業は始まらないか、と心の中でひとりツッコミを入れると、若王子は教科書を脇に持ち直して化学室へと歩き出した。
一方。
・・・大好きな若王子の化学の授業なのに、勉強に身が入らない。
先程断られた時の事を思い出すと、ジワリと涙が溢れそうになり、ぐっと唇を噛む。
(・・・仕方ないよね、若王子先生は先生なんだから・・・教頭先生に言われちゃったんだもん、仕方が無いよ)
そう自分に言い聞かせ、窓の外を眺める。
手に持っていたペンをくるくる回すのは、考え事をしている時に無意識に出る癖だ。
と、手元が狂い、回していた赤ペンが床に転がり落ちる。
(あっ・・・いけない)
カチャン、という落下音に気がついてペンを拾おうと身を低くすると、いつの間にか目の前に迫って来ていた白衣に視界を遮られた。
「コホン。・・・先生の授業は退屈ですか?」
若王子は床に落ちた猫のキャラクターつきの赤ペンを拾い上げてちらりと見ると、ふう、と溜め息をついた。
「い、いえ、そんなことは・・・!」
慌てて弁解するが、時すでに遅し。
「このペンは先生が没収します。・・・放課後、化学準備室まで取りに来てくださいね」
ペンを白衣の胸ポケットにさすと、若王子はニコリ、と微笑んだ。
・・・そして、放課後の化学準備室。
(せっかくの若王子先生の授業なのに、こんな失敗しちゃうなんて・・・プレゼントを貰ってもらう以前の問題かも・・・)
もしかしたら嫌われたかもしれない、と思考が悪い方向ばかりへと働き、ドアを開ける勇気が出ない。
すると。
「・・・いらっしゃい。どうぞ、開いてますよ?」
ドアのガラスにちらちらと映る人影に気がついたのか、部屋の中から声が掛った。
「あ、あの、失礼します・・・」
そろりそろりと準備室に入っていくと、若王子は自分の椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。
「やあ、いらっしゃい。君もどうですか?よかったらコーヒーでも」
「いえ・・・あのっ!今日は、すみませんでした。授業中なのに、ペン回しなんて」
「ああ・・・これですね?」
若王子は胸ポケットから猫のキャラクターつきの赤ペンを取り出すと、自分の指の上で器用にくるくると回し始めた。
「先生も昔は退屈な時に良く回したものです。・・・ね、なかなか上手いでしょう?」
ニコニコしながら回し続ける若王子。
あまりにも楽しそうなその様子に「ペンを返してください」、とは言いだせずマゴマゴしていると、その様子に気がついた若王子がピタリと手を止めた。
「ああ・・・すみません、ペンを取りに来たんですよね、先生つい夢中になっちゃいました」
そう言うと若王子は、白衣の胸ポケットに刺さっていた自分の赤ペンを「はい、どうぞ」と差し出した。
それはいつも若王子が採点に使っている、何の変哲もない赤ペン。
「え・・・でも、この赤ペンは、若王子先生のペンですけど」
「・・・先生、こっちのキャラクターのペンが気に入っちゃいました。・・・交換してもらっちゃ、ダメですか?」
「え?!・・・えっと、はい。それは全然構いませんけど・・・」
思いがけない若王子の申し出に、戸惑いながらもOKする。
「うん、・・・・一方的に貰うのはダメだけど、『交換』なら教頭先生にも文句言われませんから・・・ね?」
「え、それって」
若王子はキャラクターの赤ペンを白衣の胸ポケットにするりと差し込むと、満面の笑みでニッコリと微笑んだ。
「ありがとう。可愛いペンですね…大切にします」
おしまい☆