過去拍手お礼SS
□罰とご褒美と
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拍手お礼SS 第7弾☆
「罰とご褒美と」
・・・・・・・・・・・・
「・・・ねえ。いつになったら、僕を『先生』じゃなくて名前で呼んでくれますか?」
「・・・え?」
卒業して2週間目の日曜日。
世間ではまだ春休みのこの時期、卒業してから初めての臨海公園デートの後、浜辺を散策していた時。
一歩前を歩いていた若王子が、急に切ない表情で振り向き切り出した。
「愛している」と灯台で告げられたあの日から、晴れて恋人になった若王子の事を名前で呼ぼうと家で何度も練習をした。
・・・それなのに、いざ本人を目の前にするとどうしても呼ぶことが出来ない。
「ご、ごめんなさい・・・努力はしてるんですけど・・・」
「・・・そんなに僕の名前は呼びにくいですか?」
同級生の男子の名前は平気で呼んでいたのに。
『瑛くん』、『格くん』、『クリスくん』・・・・
「先生」である自分は、それを聞くたびにどんなに歯がゆい思いをした事か。
「呼びにくい、っていうか・・・その・・・」
「・・・僕は、いつまでも君の先生じゃないといけませんか?」
「そんなこと!!」
少し拗ねたような若王子の表情に、なんとか弁解しようとしてつい声が大きくなる。
・・・・そう言えば、若王子先生は卒業式の灯台の帰り道からすぐに、自分の事を下の名前で呼んでくれた。
「・・・若王子先生は、わたしの事を名前で呼ぶの、・・・照れたりしないんですか?」
顔を桜色に染めて聞いてみると。
その質問に、若王子の拗ねた表情がまさに「ぽかん」、という顔に変わった。
「・・・もしかして・・・照れちゃって呼べないんですか?」
口には出さずに真っ赤な顔でコクリ、と頷くと。
若王子は理解したようにクスリと笑みを浮かべた。
「そっか・・・そういうことですか。うん、僕は照れたり恥ずかしくは無いです。むしろ、君を名前で呼べるのが嬉しい。・・・僕は君の同級生たちが、君の事を呼び捨てにするのをずっと聞いていましたから」
「あ・・・」
若王子はほんの少し前の出来事を思い出すと、どこか切ないような笑みで微笑んだ。
そして何かを思いついたように急に手をポン、と叩いた。
「そうだ。こうしましょう。もし、君が僕の事を『先生』って呼んだら、その度に罰を与えます。」
「えっ・・・!罰、ですか!?」
また、『デオキシリボ』だろうか?
そんな事を想像したら、若王子が考えを見透かしたかのようにまた微笑んだ。
「・・・もう授業中じゃありませんから、そんな事はさせません。そうですね・・・『先生』と呼ばれても、僕は絶対に返事をしません。振り向きもしません。これでどうですか?」
「え・・・っ、そんな!!」
若王子の急な提案に、思いきり悲しそうな表情を見せると。
「や、や!そんな悲しそうな顔しないでください・・・!困っちゃいますから・・・
あ、じゃあ、ええと、違う罰にしましょう。僕を『先生』と呼んだら、僕も君の事を名字で呼びます。・・・どうですか?」
「あ、それならまだ大丈夫かも!」
そう言って今度はホッとした表情を見せると、またまた若王子があわてて取り消した。
「や、や!その言い方は安心してますね、やっぱり駄目です!それじゃあ罰になりそうにありません」
確かにホッとされてしまっては、罰にはならない。
「・・・仕方がありません、最終手段です。君が『先生』と呼ぶ度に・・・一回、キスをしちゃいます。場所がどこであってもね」
「・・・ええっ!!?」
若王子からの思い切った提案に、顔が真っ赤に染まる。
「でも先生っ、それじゃあ・・・」
口に出してからハッと気がついたけれども、時すでに遅し。
「・・・言いましたね。ハイ、ペナルティ一回です」
そう言って、若王子は軽く屈むと、唇にチュッとついばむようなキスをした。
「!!せ、せんせ・・・」
「ほら、また」
顔を真っ赤にしながら、目を白黒させていると、またもや若王子の唇が近付いてきて。
「・・・これじゃあ、余計に罰になりませんよぅ・・・」
クラクラした気持ちを懸命に抑えて、唇が触れる寸前でそうつぶやくと、若王子の顔がスッと離れた。
「・・・や。これが罰にならないということは・・・あ、もしかして。・・・僕とキスしたい。ピンポンですか?」
その問いかけに、真っ赤になりながら俯くと。
「・・・うん、わかりました。じゃあ、罰では無くご褒美にしましょう。僕を名前で呼んでくれたら・・・」
「・・・貴文、さん・・・」
若王子が全部言い終わる前に、その名前を口にする。
・・・自分でも驚くほどすんなりと出た名前。
「・・・あ」
「・・・あ」
急に名を呼ばれた若王子は、少しの間放心状態だったのだが、ぱちぱちと瞬きをすると。
「や、スミマセン、急だったのでついボーっとしてしまいました・・・うん、良くできました」
若王子は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
そして、目の前の一段と真っ赤に染まってしまった頬に、するりと掌を滑らせた。
「今度は罰ではなくてご褒美ですから・・・とびっきり甘いですよ・・・?」
おしまい☆