過去拍手お礼SS
□夜空の下の特等席
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拍手お礼SS第五弾☆
「夜空の下の特等席」
・・・・・・・・・・
今日は、年に一度の臨海地区の花火大会。
到着した会場は思った以上の混雑ぶりで、二人も人に流されるようにして進む。
ようやくスペースを見つけると、若王子が地面に腰を下ろした。
「うん、ここなら座ってもよく見えそうだ。さ、君はここに座って?」
そう言ってポケットから大き目のハンカチを取り出すと自分の横に広げ、ポンポン、と床を叩く。
「でも、それじゃあ若王子先生のハンカチが・・・」
座るのを躊躇していると、若王子がクスクスと微笑んだ。
「気にしなくてもいいよ、ハンカチくらい。せっかくの浴衣が汚れないように・・・あ、じゃあ、ここに座りますか?本当は、こっちのほうがオススメなんですけど」
そう言って、若王子は胡坐をかいた自分のひざの上をポンポン、と叩いて見せた。
「!!い、いいです、こっちにしておきます・・・ありがとうございます」
若王子からの思わぬ提案に、暗くてわからないけれど、きっと顔はこの上なく真っ赤になっていただろう。
躊躇いながらもハンカチの上に座ると、それとほぼ同時に、爆音と共に夜空には花火が打ち上げられ始めた。
「うわあ・・・!!」
「すごい迫力ですね、先生、こんなに近くで花火を見たの、初めてです・・・!」
至近距離で見る花火の大きさと音の迫力に、二人とも言葉も忘れて花火に見とれていた。
しばらくしてから、ちらり、と若王子の顔を見上げると、花火の光に照らされた横顔は子供のように輝いていて。
・・・それなのに、なんだか時折影が射すような気がして。
それがどこから来るものなのかは良くわからないけれど、一緒に居るのに度々感じる、孤独感のようなもの。
花火が途切れる合い間の闇が、不安な気持ちに一層の拍車をかける。
(若王子先生、・・・消えたりしないですよね?一緒に居てくれますよね?)
気がつくと思わず手を伸ばし、若王子の袖を引いていた。
「・・・どうしたの?」
若王子が、微笑みながら声を掛ける。
「・・・・」
思わず出てしまった行動だけに、何と答えてよいのか言葉に迷っていると、察したように若王子が口を開いた。
「・・・こっちに、おいで?」
その優しい囁きに、素直に小さく頷く。
浴衣の裾を気にしながら立ち上がり、ドキドキしながら若王子のひざの上にゆっくりと腰を下ろした。
「・・・重くないですか?」
「うん、全然?」
ニッコリと笑う若王子。
抱きかかえられているような体勢に、背後から若王子の温もりが伝わってきて・・・不安な気持ちが薄らいでゆく気がする。
空を見上げるようにして頭をこつん、と若王子の胸につけると、若王子が耳元で囁いた。
「・・・ほら、この方が、一緒の花火を見ている気がしませんか?」
「え・・・あ、ほんとうだ・・・」
若王子と同じ目線で見る花火は、ここに一緒に居るんだと、そう確信させてくれた。
自然と、笑みがこぼれる。
「・・・僕は、ここに居ます。来年も、二人で一緒に花火を見ましょう。再来年も、その先も、ずっと・・・」
「え?若王子先生、今、なんて?
花火の音でよく聞こえません」
フィナーレの花火の音に便乗して口にした告白は、聞こえなかったようだけれど。
「いいえ、内緒です。いつか、また」
若王子は満足そうに微笑むと、その小さな背中を、ぎゅうっ、抱きしめた。
おしまい☆