過去拍手お礼SS

□もっと素直になれたなら
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拍手お礼SS 玉緒先輩ver.第一弾

『もっと素直になれたなら』 前編

・・・・・・・・・・・・


卒業式の時には見事に花をつけていた校門横の桜の木も、今ではすっかり葉が落ちてなんだかすっかり物哀しい。

その枯葉を踏み心地よい音を立てながら門をくぐると、僕は慣れた足取りで来賓用の出入り口に向かう。

校内に響くチャイムを懐かしく感じながら廊下を歩き、在校生たちが下校して行く間をすいすいと縫って・・・僕はどこよりも見慣れたドアの前で立ち止まった。

半年前にこの学校を卒業したはずの僕が未だこの生徒会室に出入りしているのは、名目上は「生徒会の後輩指導の為」。
確かにそれもあるし、間違ってはいないのだけれど・・・僕がこの部屋に来る、本当の理由は。

(・・・うん、今日も彼女は来ているな)

扉の向こうから感じる人の気配に、頬が自然と緩んでしまう。気持ち前髪を撫でてから眼鏡の位置を整えると、僕は数回ノックした後にドアを開けた。

「こんにちは!・・・あれっ?」

勢いよくドアを開けたのもつかの間、思いのほかガランとした室内に思わず拍子が抜けてしまう。

「えっ!?たっ・・・玉緒先輩!?きゃっ」

資料の整理でもしていたのだろうか。
彼女は手にしていた紙の束を落としそうになり、慌てて体勢を立て直す。

「わっ、驚かせてゴメン!ええと・・・君、ひとり・・・?」

「はい、そうですけど・・・玉緒先輩は、その、どうしたんですか?急に」

「あ、それは、ホラ!来月には『はばたき祭』があるだろう?そろそろ準備が始まる頃だろうと思ってさ。後輩たちの仕事っぷりを見に来たんだけど・・・他の生徒会メンバーはどうしたの?誰も居ないじゃないか」

心なしかしどろもどろな僕の問いに、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべると・・・持っていた資料を机の上に置いてポツリと話しだした。

「あの・・・それが、本格的にはばたき祭の準備で生徒会メンバーが招集されるのは丁度明日からなんです。忙しくなる前に生徒会室の中を少し整理しておきたかったからわたしは顔を出したんですけど・・・折角来ていただいたのにこの部屋に居たのがわたしだけで・・・すみません」

「え?いや!そんなこと気にしないで良いよ、事前に確認せずに来てしまったのは僕なんだから!それに・・・僕にとってはこの方が好都合かな、なんて」

「え?」

・・・君に会いに来たのが一番の目的だから。
正直にそう言えたならどんなに楽だろう。

「は、はは・・・なんでもないよ。僕も資料整理、手伝おうか。早く終わったら・・・その、良かったらなんだけどこの後喫茶店で一緒にお茶でも・・・どうかな?」

「本当ですか?!・・・はいっ、是非!」

「良かった。頑張ってる後輩に、先輩からご褒美をあげないとな」

嬉しそうに、彼女の顔が綻んだ。

はは・・・やった!



・・・・・・・・・・・



「それにしても事前に資料整理だなんて、随分と張り切ってるんだな。これだけの量を片づけるの、大変だったろう?なんでまた一人でなんて」

最後の資料を束ね終え、僕はふうっと一息ついた。

彼女が生徒会の任務に対して熱心だったのは、去年までの姿をずっと見てきたから知っている。事前に連絡をくれたら僕だって手伝う事が出来たのに・・・そう思いながら彼女に問うと、彼女の口からは意外な答えが返ってきた。

「いえ、わたし・・・実は・・・今年も学園演劇に出る事になっちゃったんです。また明日からはそっちの稽古にかかりっきりになりそうだから、せめて今のうちに役に立とうと思って」

「え・・?」

昨年の学園演劇では、彼女はヒロイン役。奇跡的に僕も主役に抜擢されたため、幸いにも彼女の相手役をつとめる事が出来た。

あの配役は全校生徒の投票で決まるらしいから、人気のある彼女が今年も主役に選ばれる事はおかしくは無い。良く考えればむしろ当然の事なのだけれど・・・。

「そうなのか・・・二年連続で学園演劇に出るなんてすごいな!君の事だから、もちろんヒロイン役だろ?それってどんな・・・あ」

・・・ヒロインという事は相手役がいるはずじゃないか!
僕は口に出してから、彼女の快挙に呑気に浮かれている場合ではない事に気が付いた。

「はい、ロミオとジュリエットのジュリエット役なんです。相手は・・・」

彼女が相手役の名前を告げようとした時。

入り口のドアがガラリと開いて、その人物がひょっこりと顔を覗かせた。僕の鼓動が、ドキリと跳ねる。

「あれっ?琉夏くん・・・どうかしたの?」

「あ。やっぱりここに居た。俺さ、今までずっとオマエのこと探して・・・あれ?カイチョ―?なんでここに?」

「・・・やあ。琉夏君、久し振り」

嫌な予感のせいか、若干声が震えてしまった。
その声を聞いてか、彼はふっと笑みを浮かべると後ろ手に生徒会室のドアを閉めつかつかと室内に入ってきた。

「どうしたの、琉夏くん?わたしに用?」

「うん、オマエに用。あのさ、学園演劇の稽古さ、明日からだろ?全体練習の前に、台本読むのに付き合ってもらおうかと思って。俺、難しい漢字読めないよ」

そう言う彼が手にしているのは、演劇の台本。

彼もこの学校ではではかなり人気がある生徒だ。その彼が劇に出るとなると、勿論その役は・・・。

「え?台本って、今から?」

「そ、いまから。・・・ダメ?」

「でも今日は先に約束があるから・・・」

彼女が僕の顔をちらりと見た。
約束というのはさっき僕が提案した、喫茶店の事だろう。
彼女の訴えるような瞳は何が言いたいのだろう?

(僕に助けて欲しいのか、それとも・・・)

・・・そうだ、彼女は責任感の強い子だ。
きっと完璧な状態で演劇に臨みたいに決まっている。僕の誘いのせいで練習できないのなら・・・やっぱり。

「ね、僕との事なら気にしなくていいよ。はばたき祭までに、またここに手伝いに来るつもりだから。それに・・・全体の稽古でロミオと息を合わせるためにも、ここは彼の頼みをきいてあげた方が良いんじゃないかな」

「え・・・玉緒先輩・・・?」

「あれ?俺、ロミオ役やるってカイチョ―に言ったっけ?」

不思議そうに首を傾げる琉夏君と、その横で僕の顔を見つめる彼女。
僕は彼女の顔を見る事が出来なくて、椅子にかけてあった自分の上着を無造作に掴むと、極力笑顔になる様に努力して口を開いた。

「じゃあ、僕はこれで帰るから。学園演劇頑張れよ、主役のお二人さん!」

・・・まただ。
自分の気持ちを押し殺して、人の事ばかり気にしてしまう。・・・また僕の悪い癖が出た。

ドアを閉める前に見た彼女の瞳が悲しそうだったのは・・・気のせいだろうか?

僕は逃げる様にして生徒会室を後にした。


「玉緒先輩・・・」

「な、オマエさ・・・カイチョ―帰しちゃって良かった?もしかして俺、お邪魔だった?」

「そ、そんな事無いよ!玉緒先輩は生徒会の仕事を手伝いに来てくれただけだしそれに・・玉緒先輩は・・・きっとわたしとの約束なんて・・・別に・・・」

「・・・ふうん。俺・・・良くわかんないけどさ、なんだかオマエ・・・」

「え?」

「・・・まあ、いいや」








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