GS2 小説 短編A

□君に、触れたら・・・
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『それではこれで本日の上映プログラムをすべて終了いたします。またの御来館を心より御持ちしております・・・』


上映終了のアナウンスとともに館内の照明が明るくなると、周囲の客たちがざわざわと立ち上がる。

僕の隣に座っていた渚は、先ほどまで頭上に広がっていた満天の星空の余韻に浸るように椅子の背もたれに寄りかかると、ゆっくりと息を吐いた。

「はあ・・・すごく綺麗でしたね、初夏の星座・・・はばたき市の空でもあのくらい見えたら素敵なのに」

「はは。この街は灯りが多いから、街中が停電にでもなったら見えるかもしれないね。それかもっともっと郊外の、泊まりでないと行けないような田舎の・・・」

続きを言おうとして、僕はハッと言葉を飲み込んだ。

「え、先生、今何て?」

「ええと・・・何でもないです。さて、僕たちもそろそろ退出しましょうか」

「・・・はい!」



彼女・・・渚が羽ヶ崎学園を卒業してから三ケ月、あと2週間もすれば世間は夏休みという、七月の第一日曜日。

今日僕は彼女と共に、市内のプラネタリウムで行われている夏季限定のナイトショーに来ていた。

『はるひから教えてもらったんですけど、プラネタリウムのプログラムが新しく変わったらしいんです。良かったら行ってみませんか?夜からの上映は夏だけの限定だそうですよ』

僕の携帯に彼女からそうメールが入ったのは二日前、一学期の期末試験が全て終了してすぐのことだ。

この時期の教師というものは試験問題の作成やら採点やら、成績表の審査やらで何かと忙しく、一か月近く彼女とのデートは御預けになっていた。

会えない間、彼女はメールや電話でのやり取りの中でも「どこに行きたい」とか、「会いたい」とかの要望は一切言っては来なかった。今日の約束も「夜からでいいですから」と待ち合わせの時間を指定してきたのは彼女だ。仕事で忙しかった僕の体を心配して、日曜日くらいゆっくり眠ってくださいという心遣いからだろう。


もしかしたら僕のせいで彼女にはものすごく我慢させてしまっているのかもしれない・・・と申し訳なく思う反面、
「彼女は僕に会わなくても全然平気なんじゃないか」
という卑屈な考えもたまに頭をよぎる。

そんなマイナスな思考が頭をめぐるのは仕事の忙しさで多少の苛立ちを感じていたせいもあるだろうけれど・・・

(・・・僕が社会人ではなくて彼女と同じ学生だったなら・・・もっと一緒の時間を過ごせるのに)

「担任教師」と「教え子」という肩書を脱却した今でも、「社会人」と「学生」という立場の違いに相変わらず歯がゆさを感じる。

そんなことを考えても立場が変わるわけでもないし、あと4年もすれば彼女も大学を卒業するのだということは頭ではわかっている。

けれど、彼女が大学生になってどんどん綺麗に魅力的になっていくのを目の当たりにする度に

「いつか彼女が僕に興味を無くして、僕の目の前から居なくなってしまうのではないか」

という強い不安に襲われるのも事実だった。
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