小説
□幼い日々
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「マスタングさん!起きてください!」
彼が来て数週間。
このところ彼を起こすことが毎朝の日課になっていた。
「朝ご飯冷めちゃいますよ」
そう言いながら身体を揺さ振ると、彼は気の抜けた声を出しながら重い瞼を開いた。
そして何度か瞬きをし、目を擦りながら起き上がる。
「おはようございます」
「おはよう」
ふぁ〜と欠伸をしながら挨拶を返す彼の仕草は見た目と同じく何だか幼くて、私は気付かれないように小さく笑った。
相変わらず彼は眠たそうに生欠伸をしながらベッドから降り、うーんと伸びをしている。
「あんまり寝坊ばかりしていると父に叱られますよ?」
私の父は彼の錬金術の師であり、気難しく寡黙な人だ。
怒鳴り散らしたりはしないけど、怒るとそれなりに恐い。
「毎日遅くまでお勉強ですか?」
寝癖でボサボサの髪の毛をわしゃわしゃと適当に整えている彼は、まだ少し眠そうだ。
夜中にトイレに起きたとき彼の部屋にはまだ明かりが点いていたから、相当遅くまで起きてたみたい。
「ああ…。本を読むと時間を忘れてしまってね」
俺の悪い癖だと笑う彼に、初めて会ったときと同じ胸のざわめきがする。
でも、それが何なのかは今回もわからない。
鼓動が速くなって、息苦しくなる。
いったいこれは何なのかしら?
「リザ?顔が赤いけど大丈夫?」
いつの間にか私の顔を覗き込んでいた彼の掌が、私の額に触れた。
いきなりのことに驚いて、私は反射的に身体を引いてしまった。
「あ…。ごめんなさい……」
彼の顔を見ると、一瞬悲しそうな表情をしてごめんと一言謝った。
そんな彼に首を横に振る。
「こ、こっちこそごめんなさい。先に下に降りてますね」
彼から逃げるように部屋の扉を開け、早足で階段を駆け降りていった。