小説
□二人を結ぶもの
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『今夜うちで食事でもしませんか?』
明日も通常勤務というのに、珍しく中尉から食事の誘いがあった。
もちろん断る理由もなく、私は今彼女の家にお邪魔している。
「いや、どれもすごく美味かったよ」
洗い物を終え、私が座っているソファーの横に座った中尉に称讃の言葉を贈ると、彼女は少し照れながらありがとうございますと頭を下げた。
そのはにかんだ笑顔が可愛らしい。
「こんな妻をもらえたら、夫は幸せだろうな」
心からそう思う。
彼女のような素敵な女性が将来の伴侶になってくれたらどれだけ幸せだろう。
「……それは遠回しにあなたと結婚しろということですか?」
恐る恐る口を開いた中尉は、遠慮気味に首を傾げている。
そんな中尉の手を取ると、その鳶色の瞳を真っすぐに見つめた。
「遠回しじゃない。今はまだそのときではないが、私の目標が達成されたら私のところに来い」
それまで傍にいてくれるかと問いかけると、何をいまさらと彼女は微笑んだ。
私の手をきゅっと握り締めた彼女の指は雪のように滑らかで白い。
「子供は二人がいいですね。女の子と男の子が一人ずつ」
いつもなら絶対にしないような話を始めた中尉。
珍しいなと思いつつ彼女の話に耳を傾ける。
「女の子は私似で、男の子はあなた似です」
家は小さくてもいいから花でいっぱいにするんですと、まるでおもちゃを目の前にした子供のような彼女の瞳は生き生きとしている。
いつかそんな幸せな日が訪れることを願いながら、その柔らかな瞳を見つめ返した。
「でも」
楽しそうに微笑んでいた彼女の表情が真顔にかわった。
繋いでいた手を離すと、少し間を置き口を開いた。
「でも、もし私がいなくなってしまったらどうしますか?」
いったい何を言い出すんだ?
私が戸惑った表情をすると、中尉はもしもですよと念を押した。
本当に今日の中尉は中尉らしくないと思いつつ、馬鹿を言うなと叱責する。
「何を言ってるんだ。そんなことあるわけないだろう」
彼女が私の傍から離れるわけがない。
いや、たとえ何があっても私は彼女を離さない。
だから、『もしも』でも君がいなくなるなんてあるはずがないんだ。
「何があっても私の傍から離れるな。私より先に死ぬことも許さん」
命令だと言うと、彼女は力が抜けたように笑い、
「わかりました。すみません、突然変なことを言ってしまって」
と謝った。
今思えば、彼女はこれから起こることを予期していたのかもしれない。
もしこのとき何か一つでも違うことを言っていたら、私達の未来は変わっていたのだろうか。