小説
□どんな君でも
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「大佐!動かれてはお身体に障ります!!」
玄関で愛しの恋人を迎えると、第一声は予想していたとおりの言葉で。
中尉は手に抱えていた荷物を床に降ろすと、急いで私に駆け寄り身体を支えた。
そしてリビングに連れていかれると、ゆっくりとソファーに座らされる。
「そんなに心配するな。君こそ、こんな毎日来ては身体に障るぞ」
負傷してからというもの、中尉は昼休みに司令部を抜け出しては私のところに来て昼と夜の食事の準備やら洗濯をしていってくれている。
夜も仕事帰りに立ち寄って、私の様子を確認し昼と夜の食事の片付け、朝の準備までして帰っていく。
昨日は深夜に訪れていろいろ準備してくれたようだが、不覚にもぐっすり眠っていたので彼女が来たことにはまったく気が付かなかった。
「人の心配よりご自分の心配をなさってください」
そう言うと中尉は食事を作るためにキッチンへと向かった。
その後ろ姿を見送りながら、ふと何か変わっているような気がした。
(少し痩せたか……?)
軍服を着ているのであまりよくわからないが、少し細くなったような……。
顔の線もシャープになった気がするのだが。
(…まあ、仕事が忙しいのか)
それに毎日私の面倒もみてくれているのだし。
大して気にすることではないだろうと、一旦思考を止めキッチンの方向に視線を移した。
野菜スープのいい香りが鼻腔をくすぐり、急に腹が減ってきた。
そう思っていると、中尉が食事を乗せたお盆を手に私の傍にやってきた。
「ここでお食べになりますか?それとも寝室で?」
そう尋ねる彼女にここで食べると告げると、目の前のテーブルにお盆を置いた。
スプーンを手に取り、スープに口をつける。
優しい味のスープは中尉のような温もりがあり、身体の芯から温まっていく。
「お味はいかがですか?」
一口食べたのを確認すると、中尉は少し不安げに私の顔を覗き込んできた。
そんな彼女に美味いと言うと、嬉しそうに微笑み、
「ありがとうございます」
と、頭を下げた。
相変わらず礼儀正しい人だと感心しつつ、再び野菜スープを口に運ぶ。
「君は食べないのか?」
いつの間にか洗濯物を取り込み、たたみ始めた中尉に声をかけた。
この間も私に食べさせただけで、彼女は何も食べていない。
「お腹が空いていませんので」
司令部で何か食べますと言うと、たたんだ洗濯物を片付けにリビングから出ていった。
食べる時間などあるのだろうか?
昼休みギリギリまで私の家で家事をしているので、食事をする暇などない気がするのだが……。
まあ、中尉のことだ。
大丈夫だろうと思い気にすることなく食事を続けた。
このとき、もっと彼女のことを気にかけていれば、あんなことが起こることもなかっただろう。