小説

□昔の過ち
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「だーかーらーっ!僕のパパなの!!」





執務室に連れてきたのはいいものの、どうしても彼は私を『パパ』だと言ってきかない。





周りの者達も、私の子ではないかと囃し立ててくる。






「髪の色なんて、まんまじゃないですか」




煙草をくわえながら、楽しそうにハボックは言った。



こいつは私で遊んでいるに違いない。






「さっきから言ってるだろう?私の子ではないと……」




これ以上好き勝手に言われると、ますます状況が悪くなる。



必死で否定していると、鼻をぐじゅっとすする音が聞こえてきた。






「僕の……パパだもん……っ」





ポロポロと涙を零し始めた男の子。




周りから、白い視線が突き刺さる。






「な、泣かなくてもいいだろう!?」




どうしたら泣き止むのだろうか?





オロオロしていると、男の子の身体がふわっと浮いた。






「大丈夫。泣かなくてもいいのよ」




男の子を抱き上げた中尉は、その小さな背中をぽんぽんと優しく叩く。





するとあんなに泣いていた男の子は、小さく頷くと涙を拭いて中尉に寄りかかった。








「さすが中尉ですね」




ことの成り行きを見守っていたファルマンが、軽く手を叩いた。




男の子はぎゅっと中尉に抱きついている。








「それで、エヴァン……といったか?」





中尉に抱かれ心地よさそうにしているエヴァンを、また泣かせてしまわないように、 今度はできるだけ穏やかな口調で話しかけた。





「どうして私が君の父親だと思うんだ?」





やはりそこが一番気になるところだ。




ただの思い込みで、わざわざこんなところにまで私に会いに来るわけがない。








「ママが言ったんだ。この人が僕のパパだって……」




そう言ってエヴァンは一枚の写真を差し出した。




それは私が学生の頃の写真で、十数年前のものだ。








「うわ、大佐若いっスね!」




私と写真を交互に見比べるハボック。





……本当に失礼な奴だな。










「大佐!エヴァン君のお母さんと連絡がつきましたよ!」





勢いよく扉が開くと、フュリーが飛び込んできた。





「今から迎えに来るそうです」




その言葉に安堵すると共に、もし彼の父親が本当に私だとしたらどうしようかという不安もある。








万が一父親だったとしても、私は中尉との関係を終わらせるつもりなどまったくない。









しかし、中尉の方はどうなのだろう?







エヴァンと楽しそうに話している中尉を横目に見ながら、気付かれないようにため息をついた。
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