小説

□『ロイ』
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「失礼します」



来週の会議の資料を手に、大佐のいる司令室の扉を叩いた。






「来週の会議の資料です。目を通しておいてください」




そう言って大佐の目の前に資料を差し出す。



しかし大佐は私に見向きもせずに、



「ああ」




と一言だけ言うと、資料を受け取り再び書類にペンを滑らせ始めた。










「……あの」




ちらりとも私を見ようとしない大佐。




そんな大佐に小さく声をかけた。







「なんだ」




やっぱり大佐は私を見ようとしない。




私の好きな深みのある声も、今は暗さを増していた。










「…今夜、お時間ありますか?」





静まり返った室内に、自分の声がやけに大きく響いている気がする。






「………」



ようやく大佐と目が合った。













少しの沈黙が流れ、大佐はゆっくりと口を開いた。







「話があるなら、今話せばいいだろう?」






そっけない返事に冷たい態度。











私、そんなに酷いことをした?








避けられるほど、大佐を傷つけたの?













「…………さい」





自分でも聞き取れないほどの、本当に小さな声。








「なんだって?」



大佐に私の呟きは届かなかったようだ。





眉間にしわを寄せながら、大佐は聞き返してきた。














「嫌いなら嫌いとおっしゃってください!」





ほんの数時間前まで、大佐との関係が終わるなんて嫌だと思っていたけど。









ずっと大佐から無視され続けるぐらいなら、昔に戻ったほうがましだ。












たとえ眠れない日々が続いたって












『上司』と『部下』の関係に戻ったって









私を見てほしい。






『恋人』としてではなくてもいいから、こっちを向いてほしい。




















「嫌いって……言ってくださいよ……」








涙が溢れて止まらないが、止めようとも思わなかった。












生まれて初めて、心を許した人だった。









この人になら、自分のすべてを預けてもいいと思った。










(なのに、こんな終わり方……)










俯いて大佐の言葉を待った。





どんなことを言われても、しっかりと受けとめよう。




















「……嫌いになんかなるわけないだろう」






返ってきたのは、予想していたのとは真逆で。





泣き腫らした目で大佐を見ると、罰が悪そうに頭を掻いている。








「……ちょっと拗ねていただけだ」






恥ずかしそうに目を逸らす大佐は、





「悪かった」





と、今度は照れ臭そうに謝ってきた。













「もう……っ」






一気に力が抜け、思わず床に座り込む。








あんなに思い詰めたのに。





ただ拗ねてただけだなんて……。










「悩んで損しました……っ」




安心して、また涙が溢れだしてきた。





そんな私に





「泣き虫だな」




と、大佐は優しく笑い額にキスをした。








「大佐のせいです……っ」





久しぶりに触れた大佐の温もりは、今までで一番暖かい。






恥ずかしいけれど、子供のように抱きついてしまった。















「…ところで、どうして『ロイ』と呼んでくれないんだ?」






私の頭を優しく撫でていた大佐は、穏やかな声で言った。











「…恐かったんです」





大佐にようやく聞こえるぐらいの声で、ゆっくりと話しだした。









「慣れるのが恐かったんです……」





絞りだすように言葉を紡いだ。






あのとき言えなかったことを、少しずつ大佐に伝えていく。







「私にとって、大佐の名前は特別なんです。大切な人の名前って、呟くだけでも幸せになれるでしょう?」







私の問い掛けに、大佐はそうだなと一言答える。








「でも、もし大佐が私のことを嫌いになったら、今の関係が駄目になったら、大佐の名前は私にとって辛いものにしかならない」








『ロイ』と呼ぶことが当たり前になって、自分のもののように思いだしたら、この関係が駄目になったとき私は立ち直れない。







「だから、慣れるのが恐かったんです……」









言い終わると、大佐がふっと笑った。







「…どうして笑うんですか?」





私おかしなことを言ったかしら。




上目遣いに大佐を見上げると、目を細め優しく微笑んでいた。










「離すわけないだろう?」




たとえ君が私を嫌いになってもなと、大佐は一言付け加えた。



















「よろしくお願いします。…………ロイさん」





















この人なら大丈夫。










私の人生、この人に賭けてみよう。






***********************んー……。
なんかいまいち(´`)
どうして私の書くものは、リザさんが大佐のこと激ラブなのでしょうか?
意識してないけど、こうなっちゃうんだよな(;´∩`)
ていうか、ちゃんとつじつま合ってるのかなと書き終わって思いました(笑)
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