小説
□卵焼き
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「今日はいつもより遅かったな」
出勤10分前に司令部に着くと、すでに机に座っている大佐が声をかけてきた。
(貴方のせいですよ……)
そう思いながら大佐に目を向けた。
「な、なんだ?」
私の厳しい視線に、少したじろいだようで、そんな大佐に
「……なんでもありません」
と、一言言うと自分の机に鞄を降ろした。
大佐に八つ当りしても、何の意味もない。
それに、大佐から卵焼きを作ってほしいと頼まれたわけではないのだ。
自分がやりたくてやっていること。
なのに誰かに八つ当りするなど私らしくないし、やってはいけないことだ。
(今日も頑張ろう)
そう思って席につく。
頑張って、大佐に美味しい卵焼きを焼こう。
喜んでもらえるなら、今夜の夕食も卵焼きで構わない。
大切な人のために。
そう思えば、こんなのたいしたことないわよね。