小説

□君のために
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「おはようござ……」




『おめでとうございます!ホークアイ中尉!』



パーンと勢いよくクラッカーが鳴った。







「………」




驚いて目を丸くしたままの中尉が、この後どう反応するか内心楽しみにしながら待っていると












バタン






(バタン?)






『え!?中尉!?』






扉を閉めてしまった中尉に、思わず声をそろえて叫んだ。







「ちょ、ちょっと大佐!中尉出てっちゃいましたよ!?」




呆然と立っている私の肩を、ハボックがこれでもかと揺さ振った。









「あの……」



わーわー騒いでいると、扉を少しだけ開けて、中尉が顔を出してこちらの様子をうかがっている。






「中尉!どうして扉を閉めちゃったんですか!」



泣きべそをかいたみたいな顔をしながら、フュリー曹長は中尉に詰め寄った。





「ご、ごめんなさい……」



フュリー曹長に圧倒されたのか、訳が分からないまま謝っているようだ。






「で、どうして扉を閉めたんだ?」


フュリー曹長を引き剥がして、まだきょとんとしたままの中尉の顔を覗き込んだ。







「部屋を間違えたかと思いまして……」




すみませんと軽く頭を下げる中尉。



(……これは失敗だったか?)




そう思っていると、中尉が恐る恐る口を開いた。





「あの…。それで、これは一体何ですか…?」



不思議そうに首を傾げる中尉は、いつもよりあどけない表情で。



可愛くて思わず抱き締めそうになるのをぐっと堪えた。




「何って、今日は中尉の誕生日でしょう?」


そのために頑張って用意したんですからと、ブレダ少尉はわざとらしく肩をすくめた。







「私の誕生日……?」




完全に忘れていたようだ。



しばらく考えるように眉間に皺を寄せていたかと思うと、『あ!』と声を出し目を見開いた。







「思い出したか?」



口を開いたまま動かない中尉に声をかけると、何か言いたそうに私を見たが、すぐに俯いてしまった。









「中尉?どうしたんですか?」



ファルマン准尉が、私の後ろから中尉に声をかけた。




「ファルマンおまえ、そんなところにいたのか……」


わざとらしく言うハボックに、





「さっきからいましたよ!」


と、怒るファルマン。






「うるさいぞ……」



せっかく中尉のために用意した誕生日会だがグダグダになってしまった。




(やっぱり失敗だな……)






中尉を喜ばせることができると思ったのだが。





ハボック達は騒がしいし、中尉は俯いたままだし。




どうしたものかと考えていると、フュリー曹長が中尉の顔を覗き込みながら













「泣いてるんですか?」








と、小さな声で言った。











『…え?』




フュリー曹長の囁くような声に、今まで言い合いをしていたハボック達も一斉に静かになった。












「中尉?泣いてるのか?」



そっと中尉の頬に手を添えて、顔をあげさせる。








そこには、目を潤ませて頬を赤く染めている女性がいた。







「泣いちゃ、駄目でしたか……?」




恥ずかしそうに目線を逸らす中尉は、もう可愛いとしか言いようがなくて。




ここが仕事場でなければ押し倒しているところだ。









……まあ、そんなことは置いとこうか。









「いや、泣くなとは言ってないが……。どうして泣いたんだ?」





そう言うと、中尉は涙を拭いて私達を見た。








「…嬉しかったんです」





そう一言呟くと、中尉はにっこり笑った。









中尉は母を早くに亡くしている。



父はというと、研究に没頭するあまり彼女にかまえなかったという。





だから今まで誕生日を祝ってもらったことが少なかったのではないのだろうか。








「大佐が考えたんですよ」


いつの間にかケーキを持ってきたブレダ少尉が、中尉の肩を叩く。





「大佐が……?」




なんだか急に恥ずかしくなってきて、中尉から目を逸らした。






「そうだが……」



やはり、私がこんなことをするのは意外だったのだろうか……。






「ありがとうございます、大佐」




しかし、返ってきた言葉は予想とは違っていて。







ゆっくり中尉に顔を向けると、嬉しそうに笑っていた。








「ほら、ケーキ食べちゃいましょうよ」






そう言ってロウソクを刺したフュリー曹長。








歌を唄い、中尉は一気に火を消した。






おめでとうと言われ、気恥ずかしそうにありがとうと答える。








切り分けられたケーキを本当に美味しそうに食べる中尉を見ると、誕生日会を開いてよかったと心から思った。
















「……もしかして、このせいで熱を出されたんですか?」




他の者達が残りのケーキの取り合いをしているのを横目に見ていると、中尉がそっと隣にやってきた。






「…悪いか?」



そう言うと中尉はありがとうございますと笑い、残りのケーキを口に含む。













「…なあ、中尉」






「はい……。んっ……」












振り向いた瞬間、中尉の唇に自分の唇を押しつけた。







中尉の唇は、さっき食べたケーキ以上に甘く感じて。






「た、大佐!?」





真っ赤に顔を染める中尉に



「この間の仕返しだ」



と、再びその甘い唇にキスをした。












来年の誕生日は何をしよう。







中尉の甘い唇に触れながら、そんなことを考えていた。


***********************更新遅くなってごめんなさい!
いや、中尉可愛いな(笑)
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