小説

□こんなときは
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「大佐」



司令部に着くなり、自分のオフィスに閉じこもった大佐。



そっとしておいて欲しそうだったけど、そんな大佐は無視して一緒に司令室に入った。






「大丈夫ですか」


コーヒーを渡しながら、大佐の顔を覗き込んだ。


頬はほんのり桃色に染まり、額にはうっすらと汗をかいている。







「何がだ?」


コーヒーを一口啜り、ここのコーヒーは相変わらずまずいなと大佐は呟いた。







「『何がだ?』ではないです。体調がお悪いのでしょう?」



黙っている大佐の額に手を添えた。



(熱い……)



掌に伝わる大佐の体温は、思った以上に高くて。





「大丈夫だ」



気にするなと、額から私の手をどかして、大佐はペンを握る。









……気にするな?





そんなの無理に決まってるでしょう?





「放っておけばそのうち下がる。君も仕事に戻りたまえ」




追い払うように手を振る大佐に、少しカチンときてしまって。








「大佐!」



思わず叫ぶと、大佐はポロっとペンを落とした。






「ち、中尉……?」






私が怒ったのによほど驚いたのか、大佐はぽかんと口を開けて私を見つめている。







「どこが大丈夫だというんですか!ふざけるのもいい加減にしてください!」




声をあげればあげるほど、気持ちが高ぶってしまう。








だって、悔しかったの。








他の人にはともかく、私に言ってくれなかったのが、どうしようもなく悔しかった。











「……私じゃ、頼りになりませんか?」








私にだけは何でも話してほしい。






辛いときは頼ってほしい。







そう思っちゃいけないの?









「…心配かけたくなかったんだ」



ぼそっと呟く大佐の声は、よく耳を澄ませないと聞こえないくらい小さかった。








「私が寝込んだら、君は心配するだろう?」



大佐はそう言うと、落ちたペンを拾って立ち上がった。






「しかし、君にはかなわないな」


仮眠室で寝てくると言うと、大佐は司令室を出ていった。








かなわないのは当然でしょう?





だって、私はあなたに惚れているんですから。
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