小説

□初めての
2ページ/3ページ






さっきからドキドキしてしょうがない。
だって、今目の前に大佐の家の玄関がある。


他の人に私達の関係は内緒なので、大佐は先に東方司令部を出た。

私が司令部を出たとき、ハボック少尉が目配せしたのが気になったけれど。








チャイムを鳴らし、私ですと声をかけた。

(この間はここに違う女性がいたのよね……)

なんとなく暗い気分に浸りながら、大佐が出てくるのを待った。


「どうした?入らないのか?」


玄関が開いたことに気が付かなかった。
顔をあげると、不思議そうに私を見ている大佐がいる。


「あ、お、おじゃまします」

慌ててぺこりと頭を下げると、大佐は

「どうぞ」

と、微笑みながら私を家の中にエスコートした。



家の中は思いの外片付いていて、シンプルな壁紙に合わせた必要最低限の家具があるだけだ。


「ちゃんと片付けてるんですね」

「まあな。……というより、さっき片付けたんだがな」

軽く笑いながらコーヒーを入れる大佐の背中をまじまじと見た。


(こんなに大きかったかしら……)





『背中を守ってほしい』





そう言われ、彼の『副官』として付いて来た。




でも今は『恋人』として、守られる側にいる。








「さっきからどうした」



またぼーっとしてたみたい。

大佐はコーヒーを渡しながら、私の顔を覗き込んでいる。


「なんだ、緊張してるのか?」

君もまだまだ青いなと笑われ、子供ようにぽんっと頭を撫でられた。


「子供じゃありませんっ」

コーヒーをテーブルに置き、大佐を睨み付けた。





いつもなら、大佐の軽口なんて簡単にかわせるのに。

今夜はどうも大佐のペースに流されそうだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ