小説2
□小さな命
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家の中に入り、ぬるめに温めたミルクを皿に乗せ子猫の前に置いた。
子猫は警戒したように皿に近づきくんくんと臭いを嗅いでいたが、小さな舌をほんの少し覗かせると、ペロッとミルクを舐めた。
一口舐めるとさらにペロッとミルクを飲み、あっという間に皿を綺麗に舐め上げた。
「相当喉が渇いてたんだな」
床に胡坐をかき、その上にエルを乗せていたロイが感心したように呟いた。
エルは子猫がミルクを飲んでしまったことが嬉しいのか、小さな手をパチパチと叩いて拍手をしている。
「リーフです!」
ロイの膝から降りて子猫をだっこしていたエルが、子猫を自分の前に掲げながらそう言った。
一瞬何のことかと思ったが、どうやら子猫の名前のようだ。
「どうしてリーフなの?」
にこにこしているエルにそう尋ねると、子猫を私の目の前に掲げながら、
「葉っぱみたいな色のおめめです!」
と相変わらず甲高く可愛らしい声で答えた。
確かに綺麗な緑色の瞳をしていて、まるで夏に瑞々しく生い茂る葉のような色だ。
「ね、リーフ」
「ミー」
エルが名前を呼ぶとリーフは嬉しそうに鳴き、ペロッとエルの頬を舐めた。
エルはくすぐったいと笑いながら楽しそうにしている。
「…ロイさん」
リーフと戯れ合っているエルを眺めながら、同じようにエルを眺めているロイに声をかけた。
するとロイは、ん?と振り向き、どうした?と不思議そうな顔を私に向けた。
「うちでネコは飼えませんよ……?」
躾はどうにかなるとして、我が家にはハヤテ号がいる。
やっぱり犬と猫を一緒に飼うのは……。
「そうだな……」
私の言葉にロイは難しい顔をして腕を組んだ。
こんなにエルが楽しそうに笑っている姿はなかなか見られない。
親として飼ってあげたいのは山々なのだけれど、それは難しい問題だ。
「でも、あんなに嬉しそうにしているんだぞ?飼えないなんて言ったら……」
ロイはそこまで言ってエルに目をやった。
どこから持ってきたのか、20cm程の毛糸を猫じゃらし代わりにしてリーフと遊んでいる。
「……泣きますね」
「泣くどころか、かなり落ち込むぞ……?」
飼えないと言ったときの娘の姿を想像してみるが、とてもじゃないけれど口に出来ない。
やっぱりここはハヤテ号とリーフを仲良くさせるしかないのかしら……。
「ハヤテ号とリーフがお互いに馴れてくれれば……。…あら?」
ハヤテ号を呼ぼうとして後ろのソファーを振り返ると、そこにさっきまで気持ち良さそうに寝ていた愛犬の姿はなかった。
どこに行ったのかしらと再び視線をエルに戻すと、リーフにゆっくりと近づくハヤテ号の姿が目に入った。