小説
□すれ違い
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最近、なぜか君の隣にいるのは私ではない。
金髪の長身で、タバコの香りに纏われた女運のない男・・・ハボックがこのところリザの隣にいるのだ。
昼休みも二人でなんだかコソコソとしているし、休みの日にデートに誘っても用事があると断られるし、いったい私が何をしたというんだ?
考えれば考えるほど謎は深まるばかりで、私のイライラとした気持ちも募るばかりだ。
(まさか……)
彼女は奴を好きになったのか?
いやいや、まさかな。
ハボックなんかより私の方が器量もいいし頭もいいし、地位も高いし……。
とにかく、あいつが私に勝っているところといえば背の高さぐらいだ。
こんなに魅力的な私よりリザがハボックを好きになるはずがないよな。
「うん、有り得ない」
「何が有り得ないのですか?」
「だから私よりハボックをって……うおぉ!?」
独り言のはずなのに誰かの声が聞こえてきた。
思わず返事をしそうになり顔を上げると目の前にリザの姿があり、私は驚きのあまり椅子ごと倒れてしまった。
いててと体を擦っていると、リザは少し呆れ気味に大丈夫ですかと手を差し伸べてきた。
その手を握りながら起き上がり椅子を元に戻すと、大丈夫だと言いながら椅子に座る。
背中にはびっしょりと冷や汗をかいているが、気付かれないように素知らぬふりをした。
「それで、ハボック少尉がどうしたのですか?」
今日中にお願いしますと書類を差し伸べながら、リザはさっき私が思わず口に出してしまったことへ疑問を投げ掛けた。
書類を受け取りながらなんでもないと呟くと、彼女はそうですかとあっさりと返事をした。
「それでは私は失礼します」
サボらないでくださいねと恭しくお辞儀をしてリザは執務室を後にした。
その背中を見送りながら、はぁとため息をつく。
深く突っ込まれなかった安心感と、それ以上の虚しさを込めて。
(君は私に興味が無いのか……?)
確かになんでもないとは言ったが、もう少し関心を持ってほしかった。
私が真面目に仕事をしないから、女癖が悪いから嫌いになってしまったのか?
君の気持ちが知りたい。
しかし、答えを聞く勇気は私にはなかった。
『貴方なんていらない』
そんな言葉、君から聞きたくはないから。