小説
□幼い日々
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「はじめまして」
それが、私が初めて聞いた彼の声だった。
小さなボストンバッグを片手に抱え、もう片方の手には数冊の本。
サラサラと風に揺れる髪は光沢をもった美しい黒色で。
でも一番輝いていたのは……。
「どうした?」
「え?あ…、ごめんなさいっ」
いつの間にか伸ばされていた手を慌てて握り、握手を交わす。
すると彼はくすっと笑い私の瞳を見つめ返した。
「ロイ・マスタング。君は?」
「リザ…。リザ・ホークアイです」
さっき思わず見惚れてしまった瞳に私が映っている。
その瞳は吸い込まれそうなほど深い漆黒で、でもすべてを包み込んでくれるような優しい光を灯しといた。
「よろしくな」
にっこり笑った彼は眩しいほどかっこよくて。
その笑顔になぜか胸が騒めいたが、幼い私にはそれが何なのかわからなかった。