小説
□聖なる夜に
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「子供の頃、サンタクロースに何を貰った?」
とある12月の昼下がり。
いつものように彼女の入れたコーヒーを飲みながら、そういえばもうすぐクリスマスだなと思い何となく口を開いた。
自分の机に座り、コーヒーと入れ代わりに受け取ったサイン済みの書類に目を通しながら、中尉はこちらに目も向けずに手際よく仕事をしている。
「俺、プラモデル貰いましたよ」
タバコをくわえながら行儀悪く仕事をしているハボック。
まあ、いつものことだ。
仕事ができれば然程気にしない。
「僕はラジコンです」
昔から機械が好きなんですと語るフュリーは、当時のことを思い出したのか嬉しそうな表情をしている。
「大佐は?何を貰ったんですか?」
ニコニコしたままフュリーは私に同じ質問を投げ掛けてきた。
そういえば何を貰っただろう?
「本…ぐらいだな」
昔から私は本を読むことが好きで、クリスマスは本しかねだったことがない。
他に欲しいものなんてあまりなかった。
「どんな本なんです?」
興味深げに聞いてくるフュリー。
その隣では無関心な中尉が書類にペンを走らせている。
「伝記とか哲学ものが多かったな」
とにかくあの頃から色々なことを知りたくて、小難しい本ばかり読んでいた。
そう言うと、ハボックがうげぇと言いながら新しいタバコに火を点けている。
「そんなガキ可愛くねぇ!」
「お前に可愛いと思われたくはない!」
上司に対する礼儀や思いやりの欠片すらないハボックをうるさい!と怒鳴りつけた。
そんな私達を見て、フュリーはあははと苦笑している。
「中尉は何か貰いました?」
「え?」
フュリーに声をかけられて、中尉はようやく顔を上げた。
いきなり話しかけられたせいか、ぽけっとした顔をしている。
「クリスマスですよ。サンタさんに何貰いました?」
ここにいる誰もがサンタクロースはいないとわかっているが、あえてここはサンタさんに何を貰ったか。
すると中尉はすぐに書類に目を落とし、
「サンタさんなんて来たことないわ」
と、再びペンを滑らせ始めた。
その背中がやけに寂しく見える。
(クリスマスプレゼントをもらったことがないのか……)
彼女の生まれ育った家は極貧だった。
母親には会ったことはないが父親で私の師匠であるホークアイ師匠は研究一筋の人で、クリスマスプレゼントなどに気を回す人ではない。
(私に何かできないだろうか)
彼女を喜ばせる何かを。
クリスマスには大切な人に笑顔でいてほしいだろう?
そのために、私はペンを滑らせながら思考を巡らせた。