小説
□どんな君でも
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午前11時。
今私は自宅のベッドの上にいる。
本来ならば仕事に行かなければならないのだが、先日の事件で負傷してしまい、大した怪我ではないが医者から自宅休養を命じられた。
その事件は三日前。
東でも強硬派と有名なテロリストどもが人質をとって銀行を占領した。
どうにか犯人達を捕まえたのだが、銀行の近くにまだ仲間が隠れていたらしい。
奴らを護送車へと移動させていると、仲間らしき男がこちらに銃を突き付けながら物凄い勢いで走ってきた。
それだけならまだよかったのだが。
運悪く私達と奴の中間辺りに五〜六歳の少女がぽつんと立ち竦み、まったく動こうとしなかった。
確か人質の一人だったと思う。
きっと銀行から出るときに母親とはぐれてしまったのだろう。
大きな瞳に涙を浮かべながら、その場を動こうとしない。
いや、自分の方に向かってくる男が怖くて動けずにいるのだ。
……ヤバい。
男の目は、私達ではなく少女を捕えている。
少女を人質にとり、仲間を解放するよう要求するつもりだ。
コンマ何秒かでそう考えると、自然に身体が動きだした。
焔なんて使ったら、少女に当たってしまう。
とうとう泣きだした少女を庇うように男の前に飛び出すと、男はびっくりしたのかバン!と銃を発砲してきた。
「う……っ」
その弾は右ふくらはぎを貫通。
痛さに顔を歪めたが、幸い少女には怪我はなく胸を撫で下ろした。
男は近くにいた者に取り押さえられ、護送車へと連行されていく。
「大佐!!」
泣き喚く少女を宥めながら傷口の止血をしていると、人質のケアをしていた中尉が血相を変えて駆け寄ってきた。
「弾は抜けてるし、大きな血管は傷ついていない。心配するな」
それよりこの子を頼むと、慌てふためきながら私の止血を手伝っている彼女に少女を託した。
少女を抱き留めた中尉は、泣きそうな顔で私を心配そうに見ている。
「大丈夫と言っただろう?血も止まってきたようだし」
中尉を安心させるように笑うが、彼女はまだ苦い顔をしている。
しかし少女を抱いたまま立ち上がると、眉をしかめながらも頷いた。
「…わかりました。あとで病院に伺いますので」
おとなしく治療を受けてくださいねと言い残すと、名残惜しそうに少女を連れて私のもとから離れていった。
それが私が自宅療養しているいきさつだ。
負傷者は私以外出ず、これくらいの怪我で済んでよかったと思っている。
そんなことを考えていると玄関のチャイムが鳴った。
それが誰なのかわかっているし、勝手に入ってくるのも承知していたが、ベッドから降り、痛む右足を引きずりながら玄関へと向かった。