小説

□『ロイ』
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休日の朝の、のんびりとしたベッドの中で大佐が言った一言がことの始まりだった。






「一度もロイと呼ばれたことがない」






いきなりそう呟いたかと思うと、私に『ロイ』と呼べというのだ。







大佐からは何度か『リザ』と呼ばれたことはある。





特に、あれの最中は必ずと言っていいほど『リザ』と呼ばれていた。






でも、いまさら大佐のことを『ロイ』だなんて……。





今まで『大佐』と呼んできたわけだし、それに……。








「リザ?」






色々考えていると、大佐がわざとらしく私の名前を呼んだ。





期待したようにキラキラとした瞳で、大佐は私の顔を覗き込んでいる。










「…む、無理です」





大佐から目を逸らして、背中を向けた。





だけど大佐に肩を掴まれると、ころんと転がされ元の位置に戻されてしまう。






「どうして無理なんだ?」



逃げられないように、大佐は私の上に覆いかぶさっている。





真っすぐに私を見据える漆黒の瞳は、いつになく真剣で。








「どうしてもです……っ」




大佐を押し退けてベッドから抜け出し、キッチンに飛び込んだ。








しばらくするとガチャっと玄関が開く音が聞こえ、そっと寝室に戻るとそこに大佐はいない。




ほんの少しだけ、大佐の温もりがベッドに残っているだけだった。
















それが3日前。






あれ以来、大佐は目すらまともに合わせてくれない。





それどころか、避けられている気がする……。







(どうすれば……)





このまま、大佐との関係を壊すなんて絶対に嫌。






大佐を想い、眠れない日々を過ごすなんてもうたくさんだ。









こんなときはどうすればいいのだろう……。





きっと大佐のことを『ロイ』と呼べば丸く収まるのだろうけど。






どうしてもできない理由があった。








「…仕事しよう」




とりあえず仕事に集中しよう。




それで大佐のことを忘れられるわけではないけれど……。
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