小説

□卵焼き
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「駄目だわ……」







出勤1時間前。



いつもなら、そろそろ家を出る頃だけど。



「片付けなくちゃ……」



出勤する前に、このめちゃくちゃになったキッチンを片付けなければいけない。






流しに転がっている卵の殻を拾いながら、ため息をついた。



(今夜も卵焼きね……)




正確には、卵焼きもどきなのだけれど。








別に料理が苦手というわけではない。




ただ、どうしても卵焼きだけは作れなかった。





だからこうして練習をしている。






どうして朝っぱらから卵焼きを作っているかというと、それなりに理由があった。












それは遡ること一週間前。






大佐と食事をしているときだった。









「…卵焼きが食べたいな」





そう大佐がぼそっと呟いたのだ。






それ以上大佐は卵焼きについて何も言わなかったけれど、私の頭にはしっかりとその言葉がこびり付いた。











……というわけで、ここ一週間卵焼きの練習をしているのだが、さすがに食べ飽きてしまった。







(どうして卵焼きだけ作れないのかしら……)





明日大佐がうちに来るっていうのに。








「あ、もうこんな時間」




再びため息をつきながら時計を見ると、出勤時間まで40分を切っている。





残りの卵の殻を生ごみ入れに放り投げると、急いで軍服に腕を通して家を出た。
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