小説
□君のために
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いや、うかつだった。
作業に没頭するあまり、熱を出してしまうなんて。
しかし、まさか口移しで薬を飲まされるなんてな……。
あれは悔しかった。
ああいうサプライズは男の方からするものだろう?
先を越されたというか、何というか。
だが、私だってサプライズを用意しているのだ。
そのせいで熱を出してしまったんだが。
中尉が驚く顔を想像してみる。
見物だな。
あの中尉だぞ?
驚いた顔を想像しただけでも、ご飯3杯はいけそうだ。
……それは言い過ぎだが。
とりあえず、私は中尉の驚く顔が、喜ぶ姿が見たい。
だからこうやって今、ハボック達に手伝わせているのだ。
「大佐ぁ。にやにやしてないで手伝ってくださいよ」
妄想にふけっていると、ブレダ少尉がハサミを渡してきた。
「言い出しっぺは大佐なんですからね」
真面目にしてくださいよと怒られてしまった。
ただ今22時30分。
ここ2週間ほど仕事終わりに中尉を除く野郎5人で、折り紙を切ったり貼ったりしている。
「明日なんですから。中尉の誕生日」
そう。
中尉の誕生日のために、飾り付けを作っているのだ。
他の者には、飾りぐらい買えばいいじゃないかと言われたが、やはり手作りの方が愛情がこもっていていいだろう?
さすがにケーキは作れないが、それなら飾りぐらい作りたかった。
「それにしても、どうしていきなり中尉の誕生日会をしようなんて思ったんですか?」
折り紙でわっかを作りながら、ファルマン准尉が聞いてきた。
……言えるわけない。
中尉とやっと両想いになれて初めての誕生日だから、驚かせてやりたいとは口が裂けても言えない……。
いや、私は皆に言いたくてたまらないのだが、中尉が公私混同したくないと言うので仕方なく秘密にしている。
万が一誰かに喋ってしまおうものなら、私の身が危ない…(汗)
「たまにはいいだろ。こういうのも」
どう返そうか悩んでいると、事情を知っているハボックがうまくかわしてくれた。
(また女の子紹介してくださいね)
耳元でそんなことを囁かなかったら、本当によくできた部下なのだが。
「そうですよね。たまにはこういうのも楽しいです」
やっぱり、フュリー曹長のみたいに可愛げがある奴の方がいいな。
「よし。仕上げに取りかかるか」
明日は君にとって、最高の一日になるだろうか?
そう思いながら、折り紙にハサミをいれた。