小説

□初めての
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今日は、朝からなんだか落ち着かない。


……いや、理由はわかっている。



今夜初めて大佐の家に行くことになっているのだ。
落ち着かないのも仕方ない。

(まだこんな時間……)


今朝から何度も時計を見るが、まだ昼にもなっていなかった。


(1日ってこんなに長かったかしら……)


いつもなら、時間なんてあっという間に過ぎるのに。

それもこれもすべて大佐のせいだ。


(泊まりに来いだなんて言うから……)


明日二人とも非番だからと、意味深に笑った大佐の顔が頭をよぎる。


(やっぱり、あれかしら……)


『泊まりに来い』ということは、ほら……ね?

いくら私が恋愛に疎いからって、恋人同士が何をするかぐらい知っている。

(恋人……)

改めてそう思うと、恥ずかしくてなんだかむず痒い。


「中尉、なんか嬉しそうっスね」


呼ばれて振り向くと、楽しそうな顔でハボック少尉が私を見ている。


「今日は大佐とデートっスか?」


大佐と私の関係を知っている唯一の人物。
あのときは、大佐から女の子を紹介してもらうという約束で協力したらしい。



「え?」


どうしてわかったのかしら?

そう思っていると、ハボック少尉は

「朝からぼーっとしてますよ」

中尉も女の子ですねと、からかうようにウインクをした。


「そ、そんなことないわよ」


言われて見れば、確かに今日の私は女々しいかもしれないけど。
でも、そんなの恥ずかしくて認められるわけないじゃない。



「ほら、早く仕事に戻りなさい」

「へーい」


まだにやにやと笑っているハボック少尉を追いやると、私もペンを握り仕事に戻った。
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