小説2
□初めてのクリスマス
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「『くりすます』ってなんですか?」
「は?」
今日は昼までの勤務だったため、帰りにエルを連れて買い物をした。
買ったものを冷蔵庫に片付けていると、服の袖を引っ張られ、無邪気な顔をして娘が私を見上げている。
「これに書いてあります」
そう言ってエルは、テーブルに置いてあったケーキの予約表を広げた。
もう字が読めるようになったのかと感心しつつ、クリスマスを知らないことに驚いた。
(まあ、今までの環境が悪かったからなぁ)
そう思いながら、エルの小さな身体を抱き上げる。
エルは端整な顔を私に向け、相変わらず不思議そうに首を傾げていた。
「『クリスマス』っいうのはだな、みんなでご馳走やケーキを食べたり、いい子の所には寝ているときにサンタさんがプレゼントを枕元に置いてくれるんだよ」
まあ、本来はキリストの誕生日を祝う日だが、そんな説明はいらないだろう。
しかしエルはまだ不思議そうな顔をして私の顔を見ていた。
「さんたさん?」
ああ、そうか。
クリスマスを知らないということは、サンタクロースも知らないのか……。
「ほら、今日買い物をしているときに赤い服を来た白いひげのおじいさんがいただろう?あれがサンタさんだよ」
そう説明するとエルウは納得したように頷いたが、なんだか切なげに下を向いてしまった。
どうした?と顔を覗き込むと、
「エルのところにはサンタさん来たことないです……」
と悲しそうな声で呟いた。
(しまった……)
『いい子の所には』と言ったから、自分はいい子じゃないからサンタさんが来ないと思ってしまったようだ。
しょぼんとするエルは、今にも泣きそうな顔をしている。
どうしたものかとあたふたしていると、ふとあることを思いついた。
それをエルの耳元で囁くと、俯き加減だった顔を上げくりくりとした可愛らしい瞳で私を見た。
「本当ですか?」
「本当だよ。ほら、それよりケーキはどれがいい?」
とりあえず泣かせずに済んだ。
よかったと安心しながらエルを降ろし椅子に座らせる。
そしてその前にあるテーブルにケーキの予約表を広げた。
それを目を輝かせて見つめる娘を心底可愛いと思いながら、リザに早く帰ってきてくれと心の中で呟いた。