奇跡〜冬に舞う桜〜
□第9話
2ページ/7ページ
俺はさっきとった注文票を近くにいた店員に預け、奥にある休憩室に平助を連れて入った。
「智弥は毎日こんなふうに働いてんだなぁ…。大変じゃないのか?」
「そりゃ疲れることもあるさ。それでも、この仕事が楽しいって思えるからな。苦にはならねぇよ」
へぇ〜。と、平助は感心したように息を吐いた。
それに、と俺は言葉を続ける。
「家に帰れば迎えてくれる妹も弟もいるからな」
ん?と首を傾げた平助は、しばらく考えた後パァッと顔を輝かせた。
「弟ってオレ?」
「お前以外に誰がいるんだよ?」
「オレッ!」
はいはいっ!と平助は嬉しそうに手を上げる。
そんな笑顔が、溜まった疲れを吹き飛ばす一番の薬だ。
そんなことをしみじみ思っていると、出来上がった昼飯を持った店長が、休憩室の中に入ってきた。
手には平助が注文したミートドリアと、俺がよく食べる和風パスタを持っている。
「うまそ〜。食べていいっ?」
「ええで〜。よう噛んで食べや?」
平助はいただきますっ。と手を合わせ、いまだにぎこちない持ち方でスプーンを握り、ドリアを一口食べた。
口に含んだ瞬間、今まで食べたことのない味に平助は目を輝かせる。
「うまいっ!すっげーうまいっ!今の時代こんなうまいもんがあんだなっ」
ドリアの味を気に入ったらしく、平助は一口、二口と食べていく。
その食いっぷりを見て、店長も嬉しそうに頬を緩めた。
「ええなぁ、こんな素直な弟オレも欲しいわ」
「いるじゃないっすか、弟分」
「アイツはもっと素直になるべきやて。ホンット素直やないんやから」
「んなこと言ってっと、本人に聞かれますよ」