奇跡〜冬に舞う桜〜
□第14話
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私は体をもう一度安藤先生の方へ向け、次の言葉を待った。
「明日から、稀緒さんが学校に来られるそうです」
「え……、っホントですか!?」
身を乗り出す私に、安藤先生は微笑んで、ゆっくりと頷いた。
稀緒(きお)ちゃんというのは、私より一つ下の学年の後輩で、年が明けてからなかなか学校に来ていなかった子のこと。
学校に来ていなかったのには理由があり…。
「くわしいことは言えませんが、2月14日の夜、家を出て、児童養護施設へ行ったところ、新しく引き取ってくださった方がいたようです」
「そうなんですか…。…今度の人は、大丈夫なんですか…?」
稀緒ちゃんは両親が既に他界していて、養子として他人の家に引き取られていた。
その家の人達と折り合いが悪く、家のことで憂いの表情を浮かべていることは、多々あった。
稀緒ちゃんがそんな表情を浮かべなくていいように、今度の人は、稀緒ちゃんと良好な関係を築いてほしいという思いが、私の中にある。
「今日初めてお会いしたのでなんとも言えませんが…2人とも、仲が良さそうでしたよ」
こんなふうにじゃれてですね…。と、安藤先生は腕を動かし、2人がやり取りしていたであろう動きを再現する。
思わず、私は吹き出した。
「稀緒さんにとっても、今の場所が安らげる場所となったようで…私も安堵しているんです」
「本当に、良かったです」
「また会いにきてあげてください。きっと、喜びます」
安藤先生の言葉に、私は大きく頷いた。