奇跡〜冬に舞う桜〜
□第5話
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「海の難関が去った後は、陸の難関が待ってんぜ平助」
「この坂上んの…?」
「あたしらは先に家行って掃除始めてるから、2人はゆっくりおいでよ〜」
「りょーかーい」
平助くんの吐き気が引いてきた頃に、モーターは島へと到着した。
私と平助くんの前に広がるのは、上り慣れた坂だった。
元々山だったここを開拓し、島となったのは遠い昔。
その名残からか、この島には坂道が多い。
坂道7割:平道3割ってとこかな。
智兄と遥姉は、無造作に止められているバイクの中から自分のものを出してきて、サドルの中、バイクの後ろ、足元に荷物を固定させ、坂道をバイクで走っていく。
私と平助くんは残った荷物を持ち、坂道を歩き始めた。
大きな荷物は2人がバイクで運んでくれたけど、それでも余ってしまった大きな荷物が私達の手元にある。
私がその荷物を持とうとしたけど、平助くんが素早くそれを手に持ち、残った軽い荷物も片手で持っていく。
「平助くんっ、私も荷物持つよっ」
「ん?じゃぁ…これ。頼むな?」
平助くんは片手に持っていた二つの荷物の内、重さを比べて軽い方を私に差し出した。
その優しさを嬉しく思いながらも、納得がいかない私は、平助くんのもう片方の手にある、重い鞄の取っ手を片方握った。
「柚樹…?」
「こうすれば重くないでしょ?」
「…おうっ。そうだな」
私は左手に鞄の取っ手を。
平助くんは右手に鞄の取っ手を。
反対の手には、それぞれ軽い荷物を。
荷物越しに手を繋いでいる状態の私達。
周りから見れば微笑ましいであろうその光景に、私達は思わず2人揃って笑みを洩らした。