奇跡〜冬に舞う桜〜
□第4話
2ページ/7ページ
窓拭き用のスプレーを智から受け取り、あたしはベランダの窓を開け、外側を拭いていく。
ベランダには屋根がついているから、外に面している窓よりかは汚れが少ないんだろうけど、一拭きしただけで雑巾は真っ黒。
一年間の汚れの凄さを思い知らされる。
『柚樹〜、そこ高くないか?』
『たっ…高い…』
『オレ、取るよ』
『…取れる?』
『これでもお前よりかは高いんだからなっ』
階下から聞こえてくるほのぼのとした2人の会話に笑みを洩らす。
現代に転生してきた平助を見つけたのは柚だし、平助にとって柚は命の恩人みたいなもん。
懐くのも無理ない。
「仲いいな、下の2人」
「そーだねぇ。近所の人からも『仲のいい姉妹ねぇ』って言われてたし」
「やっぱ女に間違われんだな、平助」
「髪長かったしね。今は短髪だけど」
「髪の長さで変わるもんだなぁ」
平助が、女に間違われるのが嫌だから切るっ!と朝食の席で言ってきたのは、つい昨日のことだった。
平助が歩く度に揺れていた長い髪は、今や首筋辺りまでの短髪になっている。
これは柚が切った後に智が整えたんだけどね。
色々アクシデントがあって…ね。(遠い目)
「それより、お前明日の準備終わってんのか?」
「あ゙…」
「…まだなんだな」
「鞄の準備すらしてないや」
「お前だけだぞ」
「えっ!?平助ももう準備してんのっ!?」
「昨日の夜、柚と準備してた」
「そこにあたしを呼ぼうよー…」
「掃除終わったらしとけよ?朝一番の船で帰るんだしよ」
それだけ言うと、智は窓拭きで真っ黒になった雑巾を廊下に置いてあるバケツの中で洗う。
「柚ってば…最近平助と一緒にいすぎじゃない?」
「歳の近い家族ができたんだし、そうもなるだろ。焼きもちか?」
「うん」
「いい加減妹離れしねぇとな」
黒い汚れがだいぶ落ちた雑巾を絞り、智は自分の部屋へ入っていった。
廊下の窓と母さんの部屋の窓、寝室の窓は智が拭き終えているから、ベランダの窓を拭き終わったら残るは自分の部屋の窓だけ。
あたしも真っ黒になった雑巾をバケツの水で洗い、自分の部屋へ入った。