奇跡〜冬に舞う桜〜
□第1話
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「遥姉ーっ」
「ん?」
私が呼ぶ声に、遥姉は立ち止まって後ろを振り返る。
振り返った拍子に、遥姉の長い茶色い髪が動きに合わせて空中でカーブを描く。
白い雪が降る中、その様子はとても綺麗で、女の私も思わず見惚れてしまう。
「ただいまっ、遥姉っ」
「おー。おっかえりー」
「晩飯の材料買ってきてたのか?言ってくれりゃぁ、俺が行ったのに」
「いやいや。こんだけ重いの持つとトレーニングにもなるしさぁ。でもさすがに疲れたわ」
遥姉は持っていた片方のビニール袋を智兄に渡し、残ったビニール袋の持ち手の片方を私に握らせた。
チラッと袋の中を見ると、ケーキを作る材料やら若鶏の足やら、クリスマスに欠かせない料理の材料がぎっしりと詰まっていた。
智兄が持っている袋には、2人だけでは飲みきれないほどのワインやシャンパンのガラス瓶が、ガチャガチャと音を立てている。
「雪見しながら酒でも仰ごうかと思ってねー。買いすぎちゃった」
「『買いすぎちゃった』のレベル?この量」
「まぁ、いいじゃねーか。雪見酒ってのもいいもんだろ?柚樹にも飲ませてやっから」
「だから私、未成年だってばっ」
『堅いこと言わなーい』
息ピッタリで同じことを言う2人に、私は観念したようにため息をついた。
一度言いだしたら本当に聞かないんだ、この人達は…。
それは同じ血が繋がる私にも言えることだけど。
家の中に入り、材料の入った袋を机の上に置いて中身を取り出す。
人参、ほうれん草、玉ねぎ、トマト、ミックスベジタブル、合挽き肉、ベーコン、鶏肉、生クリーム、フルーツ、ココア…。
他にも味付け用の調味料や飾り用のナツメグ、パセリなど。
「去年はメインが魚だったから、今年は肉にしようと思ってんだけど、肉ばっかじゃむつごいじゃん?」
「ま、確かにな。……そーだな…。人参とほうれん草はミートローフに挟んでフライドチキンはそのまま。
スープはミックスベジタブルがあることだし、ミネストローネで、前菜は玉ねぎと合挽き肉が多いから、スタッフド・オニオンで…
ケーキは簡単に、ブッシュ・ド・ノエルにすっか。ココアクリームで丸太っぽく」
『賛成っ!』
「よーし。じゃ、2人ともちゃんと手伝えよー」
遥姉が適当に買ってきた材料をパッと見ただけで作る料理を挙げていく智兄に感心しながらも、私と遥姉はエプロンを着けて、夕食の下ごしらえを開始した。