奇跡〜冬に舞う桜〜
□第9話
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「───……いらっしゃいませー」
来客を告げるベルが鳴り、俺は店に入ってきた客を席に通す。
そんな俺をジーッと見つめる視線が一つ。
注文を聞き終えて厨房に戻り、少し空いた時間にふぅっと息をつく。
そして、カウンターの向こう側に座っている平助に声をかけた。
「とまぁ、注文の取り方はこんなもんだ。覚えられそうか?」
「んー…うん、なんとか。後は洋風の食い物の発音とかが心配なんだよなぁ…」
「その辺は家帰ってからでも俺が教えてやるよ。それに、聞いてれば自然に覚えるさ。ゆっくり慣れていけばいいからな?」
俺は、むむむ…。と、難しそうな顔をしてメニューと睨み合いをしている平助の頭を撫でた。
ここは俺のバイト先である喫茶店、『ひだまり』
もうしばらくで中学の冬休みが終わるというある日、俺は平助に、バイトをやってみないか?と持ちかけた。
冬休みが終われば、柚樹は学校へ行くことになり、そうすると必然的に平助は家に1人となる。
退屈な思いをさせるのも忍びなく、楽しみの一つになればと思ってのことだった。
「へーすけー、なんか食いたいもんあったかー?」
「あ、店長」
「ほら、遠慮せんと好きなもん頼みや?作ったるから」
「んーっと…、あ、じゃぁこれ」
平助が指差したものを確認した店長はりょーかい。と、ニッと笑い、厨房に入っていった。
さっきの関西弁の人が、この喫茶店の店長の見谷太陽(まみや たいよう)。
もう卒業しているが、大学では俺の先輩だった人で、人当たりもよく人懐っこくて、正に名前の通り、太陽の様な人だ。
平助も、人当たりのいい店長にはすぐに懐いた。
「智弥ー、お前も休憩入りー」
「うーっす」